さて、同店の「中華そば」。初めて目にしたときの私の印象は「『千里眼』のラーメンとは、随分趣が異なるビジュアルだな」というものだった。骨太、武骨な『千里眼』らしさは随所に残しながらも、想像していた以上に淡麗ラーメンに寄せた仕上がりになっており、ゴテゴテ感がなく洗練された印象だ。

店は東急田園都市線「池尻大橋」駅から徒歩5分の場所にある

コロナ禍での試行錯誤でブラッシュアップ

長坂店主は言う。「かなり前の段階で、『千乃鶏』のラーメンの大枠は出来上がっていました。新型コロナウイルスの感染拡大がなければ、2年前にこの店をオープンするはずだったのです。ですが、ご承知のとおり、コロナ禍が発生。新規出店どころではない状況に陥り、開店が22年3月にまで延びてしまいました。でも、振り返れば、これで良かったと思います。この2年間で、味を更に改良する時間を十分確保できましたから」

丼が目の前に提供された瞬間から芳しい薫りが鼻腔 (びこう)を心地良く刺激する点は、「塩」と「醤油」共通。スープは極めて透明度が高く、見とれてしまうほど。鶏ガラと丸鶏を「主役」に据えながらも、食味の力強さを演出するために「豚の背ガラ」と、更なるうま味の増強を図るために大量の「昆布」を使用。豚背ガラを使うことは、コロナ禍で開店できなかった時期に思い付いたのだという。

頬が落ちそうになるほど芳醇(ほうじゅん)で、舌上で転がすと種々のうま味が入れ代わり立ち代わり現れる重厚な味わい。確かに、鶏だけでは到底実現し得ないものだろう。

タレもまた、こだわりにこだわっている。「『塩ダレ』はどの塩を使えば、鶏の素材感を生かし切ることができるのかを考え抜いた上で、厳選した3種類の塩を使うことにしました。『醤油ダレ』は濃い口熟成醬油を軸に、埼玉県産の再仕込み生醤油と、和歌山県産のたまり醤油をブレンドしたものです」。いずれのタレも、2年前のそれとは比較にならないほどブラッシュアップされているという。これもまた、コロナ禍による試行錯誤の時間がもたらした成果の一つだ。

「中華そば(塩)」は鶏の魅力をダイレクトに感じてもらえるように、また「中華そば(醤油)」は鶏の素材感を生かしながらも、醤油のうま味も堪能してもらえるように、随所に工夫が施されている点も、特筆に値する。

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トッピングにまで及ぶ丁寧な仕事ぶり