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世界遺産を本当に守れるか? ユネスコの意義とは?

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ナショナルジオグラフィック日本版

2016年12月、オーストリアのウィーン市は、100年の歴史を持つコンサートホール「ウィーン・コンツェルトハウス」のすぐ隣に、アイススケートリンクを備えた高層ビルを建設する計画を発表した。

ベートーベンやモーツァルトが活躍したウィーンには、この街を訪れた人たちがすぐに気がつく特徴がふたつある。ひとつは、ウィーンの中心部はバロック様式の宮殿やネオゴシック様式の市庁舎などが立ち並ぶ、夢のような建築の宝庫であること。そしてもうひとつは、ウインタースポーツへの熱量の大きさだ。毎年年初に設置される冬季限定のアイススケートリンク「アイストラウム(氷の夢)」には何万人もの人々が訪れる。

だからこそ、常設のスケートリンクを備えた高層ビルを建設しようというアイデアは、何ら議論を呼ぶものではないだろうと思われた。

「顕著な普遍的価値」を損なう恐れ

ところが、大きな異議の声が上がった。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会が、この新たな施設はウィーン中心部の「顕著な普遍的価値」を損なうと判断したのだ。

ウィーン歴史地区は、2001年に世界遺産に登録された。ユネスコが「守る価値が高い」と判断した世界1154件の遺産のひとつだ。世界遺産委員会は、スケート施設への異議を表明した2017年以降、ウィーンを「危機にさらされている世界遺産リスト」に加えている。

「危機遺産」にはこのほかおよそ50件が挙がっていて、たとえば、シリア北部の古代村落群や米フロリダのエバーグレーズ国立公園などが含まれている。もしウィーンが適切な取り組みを行わなかった場合は、恒久的に「登録抹消」となる可能性もある。

2022年11月16日、世界遺産制度は50周年を迎えた。文化的な理解と平和を促進する世界的な取り組みの一環として、ユネスコが設立されたのは第2次大戦後の1945年。その27年後、歴史的に重要な遺産を軍事紛争や自然災害、略奪、経済的圧力から守るために、ユネスコの世界遺産条約が採択された。

ウィーン歴史地区のように都市エリアにある世界遺産を保護することは、本質的な困難をはらんでいる。それは1972年の設立以来、世界遺産制度が頭を悩ませてきた課題のひとつだ。

ユネスコの限界

世界遺産への登録は、人のあまり訪れない、経済的に不利な地域にとって、旅行者を呼び込む助けになっていることは間違いない。しかし、その影響は必ずしも良いことばかりではない。旅行者の過剰な流入を防ぐことができていない例もあるからだ。たとえば、かつてはのどかだったベトナム中部海岸にあるホイアン村には現在、その狭い通りに収まらないほどの観光客が押し寄せている。

なかには、クロアチアのドブロブニクのように、独自の努力によってオーバーツーリズムの抑制に成功している地域もある。旅行者の数を減らすようにとのユネスコからの圧力にさらされたドブロブニクでは、歴史地区に入れる人数に上限を設けている。

一方で、12世紀に建造されたカンボジアのアンコールワットの寺院群は、かつては僧侶しか立ち入りが許されていなかったが、1992年に世界遺産として登録されると年間2万2000人が訪れるようになった。そして現在、その数は500万人に達し、2025年にはさらに倍増すると予想されている。

ユネスコは、アンコールワットでの自らの実績を「数百万人の観光客を集め、多くの地域住民の生活を支える巨大遺跡の管理モデル」として喧伝(けんでん)しようとしている。しかし、ユネスコも認めている通り、マスツーリズムによって大量の水が使われることで地下水位の低下を招き、寺院自体の安定性が脅かされる事態となっている。

悪意ある勢力から世界遺産を守れないことも、ユネスコにとっては大きな課題だ。シリアのアレッポやイエメンのサナアなど、軍事力を見せつけるために国の文化財が標的にされる例は少なくない。2001年、アフガニスタンでタリバンがバーミヤン大仏を破壊するのを、ユネスコが止められなかった悲劇はよく知られている。

50年の歴史の中で、ユネスコが世界遺産制度からその登録を抹消したのはわずか3件だ(オマーンのアラビアオリックスの保護区、ドイツのドレスデン・エルベ渓谷、英リバプールの海商都市)。いずれにおいても、政府が強行する開発計画に対し、ユネスコは再三異議を申し立てていた。

ユネスコにはしかし、それ以上のことはできない。たとえばラオスでは、ユネスコが事前に世界遺産への影響評価を行うよう強く要請したにもかかわらず、古都ルアンパバンの近くを流れるメコン川にダムを建設する計画が進められている。

気候変動がもたらす脅威

近年、ユネスコは新たな敵と対峙している。気候変動だ。2007年、ユネスコは、26件の世界遺産で脅威が高まっていると警告する論文を発表した。その中には、氷河や生物多様性のホットスポットのほか、ペルーのチャンチャンにあるスペイン征服前の広大な日干しレンガの都市のような、エルニーニョがもたらす激しい降雨の影響を受ける考古学遺跡も含まれている。

気候変動に対しても、ユネスコが使える手段は限られている。たとえば、ユネスコは2021年、1981年に世界遺産に登録されたグレート・バリア・リーフについて、もしオーストラリア政府が温暖化ガス排出の削減に対しより適切な取り組みを行わなかった場合、これを「危機遺産」リストに入れると警告した。気候変動を理由にこうした警告が出されるのは初めてのことだ。

オーストラリア側からの激しいロビー活動により、世界遺産委員会は決定を2022年末まで延期した。オーストラリア政府はサンゴ礁の保護に1億2500万ドル(約174億円)の拠出を約束したとされるが、気候変動対策にあまり積極的に取り組んでこなかった同国の態度が覆されるか否かはいまだ不明だ。

おそらく、危機にひんしている世界遺産の中でもっとも有名なものといえば、イタリアのベネチアだろう。ベネチアは、恐ろしいほどのオーバーツーリズム(2019年には2500万人)と、気候変動で加速する深刻な洪水の両方に悩まされている。

それでもユネスコは2021年、ベネチアを「危機遺産」リストに登録しないことを決めた。これもまた、先ほどのオーストラリアと同じく、政府のロビイストたちが勝利し、環境保護団体が敗北した一例だ。保護団体は、政府による新たな大型クルーズ船乗り入れ禁止令では、危機への対処として不十分だと主張していた。

ユネスコが手をこまねくなか、ベネチア当局は自ら対策に乗り出した。2023年1月以降、ベネチアは都市として世界で初めて、入場料の徴収を開始する。日々押し寄せる観光客の勢いを緩やかにするのが目的だ。

欠陥があり、ときに無力ではあっても、世界遺産制度には今も変わらない意義がある。それは「世界の多様な財産は、それ自体が自らを保護することができないため、保護する必要がある」という、単純ながら時に困難な原則だ。

だからこそ、ユネスコがやってみせたように、「アイススケートリンクはウィーンの歴史地区を危機にさらす」と発言することには意味がある。

(文 ROBERT DRAPER、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年11月30日付]

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