さらに、「こども園は、幼稚園と保育園がくっついた印象で、実際、自分の子どもは長時間組で、仲良かったお友達が短時間組の子であった場合は、午後の早いお時間にバイバイしないといけないんですよね」「それって、子どもの目線で作られているとは思えない」「あとは、意外にも父親の存在感がうすいなあ……」など様々な「?」が止まらなくなった。「社会課題の存在に、子育てというプライベートなところから気づくことができたんです」
どんな子どもも活躍できる社会づくり
もう1つ、荒木さんには原点とも言える「私」の領域のことがある。中学生のころ、最も仲が良く、いつも一緒に遊んでいた友人が、全く勉強をしている様子がないのに数学だけ毎回ほぼ100点を取っていた。今であれば「ギフテッド」と呼ばれるような存在だった。ところが、友人は大学まで進学したものの中退し、その後も本来持っていたはずの数学の能力を生かすような仕事につくことはなかった。「もし彼が、学校の外でも数学を極められるような場があれば、違う未来があったかもしれないと今でも思うんですよ」
経産省時代にやりがいのある様々なフィールドを経験できたものの、2~3年の異動がルーティンであった荒木さん。時間のかかる社会課題解決に腰を据えてじっくりと取り組むには、国ではなく、民間のほうがいいと考え始めた中で縁ができたのが、ロート製薬だった。18年にCEO付兼未来社会デザイン室長として入社し、民間企業による社会課題解決に挑戦。プライベートで課題感を育ててきた、様々な特徴を持った子どもたちが活躍でき、自己実現できる社会を作るために動き出した。堂々と公私を混同したのだ。
入社してからの青写真を実現したのが、21年に立ち上げたロートこどもみらい財団なのだが、ここには学校になじめない、型にはまらない、今の教育制度のもとでは力を発揮しにくいような子どもたちが集ってくる。

こうした子どものやりたいことを後押しするロートこどもみらい財団の代表理事の職務を全うするためにも、荒木さんは教育と福祉の現場への「パスポート」である保育士になることにした。
保育士といえば、いわゆる「保育園の先生」のイメージだが、それ以外の小学生以上の子どもたちも対象とした児童福祉施設など教育と福祉の幅広い現場で活躍できる国家資格だ。「これだ、と思ったんですよね」。そこから参考書を買って一気に勉強を進めた荒木さんは、なんと3カ月で合格を勝ち取った。
経験したことを出発点に学び直す
試験は筆記試験と実技試験の2段階で、保育原理や社会福祉など筆記の8科目全てに合格すると、実技に進める。実技は、音楽、造形、言語の3分野から2分野を選ぶ。荒木さんは、時間内に絵を描く「造形」と、お話を読み聞かせる「言語」を選択した。
「食や衛生面、保育原理、心理など幅広い分野から出題されます。正直、知らないことばかり。でも、学びながら、自分の子どもや他のいろいろな子どもたちの顔が浮かびましたし、自分の過去のことも思い出しました。勉強はすごく楽しかったので苦になりませんでした。読み聞かせの練習のため毎晩、自分の子どもに『桃太郎』を話し続けたのはさすがに嫌がられましたけど(笑)」(荒木さん)