カカオ豆は日本酒同様、発酵食品の1つ(写真提供:Dari K)

聞いていて驚いたのは、「ただ、その微生物がどのようなものか、実際にどのような働きをしているのか、科学的な研究例はあまりない」のだという。

日本酒の古い酒蔵などで、蔵や樽(たる)に棲(す)む微生物について語られるのを聞くのに似たイメージの話だ。そして、大航海時代にヨーロッパ人がカカオに触れてから約500年、世界でチョコレートやココアが盛んに食べられたり飲まれたりしながら、いまだに未解明な部分があるというのも面白い。神秘的なものを感じさせる話でもあり、一方、きっとこれからバイオ系の若い研究者がさまざまな発見をしていってくれそうな余地もあるようで、わくわくする話でもある。

さらに、実はその正体不明の微生物は熱に強く、出来上がったチョコレートにも生きたまま存在するのだという。板チョコは黒く、幾何学的で、つやがあり、やや無機質なイメージがあったが、微生物の話はその印象を柔らかく変えるような気がした。

生産地の幸せと食べる人の幸せ

さて、今年の初め、前述のDari Kがロッテの完全子会社になるというニュースが、ビーントゥバーファンを驚かせた。Dari Kは生産地の技術力向上で流通を変えるといったソーシャルベンチャーとしてスタートしたが、それがいよいよ既存大手メーカーの調達を変える段階に至ったと言えるかもしれない。

これまで、世界各地のカカオ生産地には貧困や児童労働の問題を抱えている地域が多かったのだが、ビーントゥバーに取り組む人や企業にはそれを変えようという考えから活動をスタートした例も多い。さらに、SDGs加速が叫ばれるなか、環境や人権への前向きな取り組みの一環として、食品原料の調達を改善しようとするメーカーや流通業者も多い。

ビーントゥバーではないが、ネスレもカカオ豆の調達について生産者の「革新的な収入向上プログラム」の導入を発表している。カカオ豆の流通が変わり、さらにより多くの地域がカカオ豆生産地として頭角を現していくかもしれない。実はカカオ豆にもたくさんの品種があり、産地によっても性質や風味が異なるという。生産地が増えれば、カカオとチョコレートの世界に、さらに新しい味わいが生まれてくるだろう。

そして何しろ、スイーツは食べて幸せを感じるもの。その原材料を生産する人も幸せである仕組みができていけば、チョコレートや、チョコレートを使ったスイーツの味わいもさらに甘くかぐわしいものになっていくに違いない。

(香雪社 斎藤訓之)

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