チョコのクラフト「ビーントゥバー」 家庭で手作りも

カカオ豆はこのフットボール形の果実の中に種子としてつまっている

数年前まではパティシエや製菓に詳しいファンの間で使われる少し謎めいたキーワードだと思っていた「ビーントゥバー」(bean to bar)という言葉を、最近は新聞記事でも見かけるようになった。それは、カカオ豆(つまりbean)からチョコレート(板チョコを英語ではchocolate barという)を作ること。20年ほど前に米国で、大手メーカーが大量生産するチョコレートとは違うチョコレートをクラフトスタイルで作ろうという人たちが現れ、そのムーブメントの中で使われるようになった言葉だ。

日本では、たとえばパティシエの鎧塚俊彦さんが、2010年エクアドルにカカオ豆の自社農園を開いてビーントゥバーを始めている。

また、著名なパティシエでショコラティエ(チョコレート職人)のピエール・マルコリーニさんという人の名は、スイーツファンの間ではもちろんよく知られているが、最近は「ミスタードーナツ」とコラボ商品を作り、そのお知らせの中で「ベルギー王室御用達の」とも紹介されたので、スイーツの専門的な世界は詳しくないという人にも広く知られることとなった。そのマルコリーニさんも、ビーントゥバーによって、オリジナルな味の世界を作っていることで知られる。

ケーキやデザートを作る上でチョコレートを使う際、多くの場合はチョコレートメーカーから原料チョコレートを仕入れて使う。その原料チョコレートのうち、クーベルチュール・チョコレートと呼ばれるものは国際食品規格委員会(コーデックス委員会)が定める高度な規格を満たしている必要があり、製菓職人向けの高品質なクーベルチュール・チョコレートを扱う有名メーカーというものもある。

そのため、もともとはクーベルチュール・チョコレートを使っていること自体が胸を張れることとも思えるのだが、ビーントゥバーにこだわるパティシエたちは、それでは自分たちの本当のオリジナルにはならないとして避けるのだ。スイーツファンにとっては、そうした厳格な姿勢が、ほかでは味わえないものを感じさせる魅力となっている。

カカオ豆は発酵食品だった

それにしても、そのような高い目標のなかで選ばれた道であれば、しかもカカオ豆の段階から作るとなると、手作りとはいえ、やはりある程度大がかりな道具や専門的な技術が必要に違いない。と、思いきや、「ビーントゥバー キット」などのキーワードで検索すると、家庭でビーントゥバーに挑戦できるキットを販売している店やサイトがヒットする。その多くは、カカオ豆と説明書、ものによっては型などの道具類もセットされている。

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まだまだ未解明なカカオ発酵の仕組み