彼女のプレゼン力はすさまじいものだ。2008年ごろ会社の運営に疑問を抱いた取締役会が、エリザベスの解任を迫ろうとした。ところが彼女はたった2時間で4人の取締役を説得しきり、自身のポジションを守った。自身にとって不都合な真実しかない中で、CEOの座を守ったのだ。

だが、中身がない人間が運営する会社の実態は散々なものだった。正論を述べた人は解雇され続け、会社を去った人は秘密保持の圧力を受けた。華やかなプレゼンの陰で誰かが犠牲になっていたのだ。

彼女の行いは許されることではないが、「スタンフォード大学中退の若い女性が、世界を救う医療機器を開発した。」という表面上のストーリーとプレゼンの振る舞いで、実態がないにも関わらずお金と人を動かした事実は、中身・真実だけが人を説得するものではないことをよく示している。

人の行動を変える物事の伝え方

エリザベスのように、アメリカのエリートをだます振る舞いを多くの人ができるわけではない。トレーニングで改善できる部分もあるが、演技のように自分を大きく見せるプレゼンが得意な人と不得意な人がいることもまた事実だ。

不得意な人は本当に大事なのはプレゼンの中身だという原点に立ち返ろう。ビジネスの文脈で最も苦労する場面の一つは、社内外の誰であれ、相手の行動を変えてもらうタイミングだ。どんなに印象がいいプレゼンをしても、人の行動を変え「続ける」ことは不可能だ。

『スイッチ!』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

どうしたら相手の行動を変えられる「中身」を作ることができるのかを知るために、チップ・ハース、ダン・ハース『スイッチ!』(千葉敏生訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)をお勧めする。本書はプレゼンテクニックの本ではないが、人の行動を変えるには何を伝える必要があるのか、を知るのに役立つ。

人を動かすためには、理性と感情の両方に働きかける必要がある。本書は人間の理性を像使いに、感情を象に例える。像使いは、長期的視点に立って自分のためになる指示を出してくれる存在だ。ところが象は、像使いの指示通りには動いてくれない。象には近視眼的な部分があり、将来のために勉強をした方がいいと理性が指示を出しても、テレビなどを見て怠けてしまうのだ。象使いを助け、象を動かすためには、下記の3つのポイントをクリアする必要があり、これらが、自分の話の中にしっかりと盛り込まれているかを確認しよう。

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場面ごとの調整が大事