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トップがきちんと把握しておくべきマネジメントの基本とは何か。目の前の問題解決で実績をあげ、社長に上り詰めたとき、ふと不安がよぎったり自信が持てなくなったりする瞬間が訪れるかもしれない。社長の悩みに寄り添ってきた気鋭のコンサルタントが意思決定のよりどころになる経営書を紹介する。

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「何か質問はありますか?」と投げかけても、誰も発言をしない。複数名の前で発言をすることはもともと得意ではなかったし、反対意見がでない方が安心ではある。心のどこかで、資料の中身だけ後で参照してくれればいいとも思っている。

計画を練る際に部下から報告を受けている間はいいが、いざ自分が会社のトップとして社内外に発言をするとなると、どうも手ごたえがない。物事は中身が大事だから、「説明が下手でも伝わる人には伝わっているはず」と自分に言い聞かせて、儀式的なプレゼンの時間が過ぎていく。果たして自分の話で、周囲を巻き込めているのだろうか。

中身がないプレゼンでも人はだまされる

確かに中身が最も大事だが、中身がないなりのストーリーの伝え方、振る舞いなど、プレゼンのうまさを甘く見ていると、きっとあなたは痛い目に合う。人を動かすためには、中身以外で勝負をしなくてはいけない場面もある。

『BAD BLOOD』(集英社)

『BAD BLOOD』(集英社)

ジョン・キャリールー『Bad Bloodシリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相』 (関美和・櫻井祐子訳、集英社)の主人公のエリザベスは、スタンフォード大学を中退して、微量の血液で検査ができる小型装置を製造する会社を立ち上げた。大きな装置や採血が必要な検査を手軽に行えるため、人の命を救える画期的な製品であるとうたい、医療機器界の"ipod"として売り出そうとしていた。

彼女は2003年に会社を立ち上げて、1年程度で600万ドルの資金を調達した。会社の取締役会にはスタンフォード大学の教授が名をつらね、立ち上げから3年で企業価値は1億6500万ドルとまで言われた。この会社の提携先には、米国の大手ドラッグストアのウォルグリーンがおり、米軍の司令官も興味を示し、さらにはクリントン一家など名だたる政治家にも着目された。

この華やかな経歴を持つ会社は、2015年にウォール・ストリート・ジャーナルが掲載した記事よって信頼を失っていく。エリザベスのうたっていた血液検査の機器は、製造されることはなかったのだ。実際は、採取した血液の検査を他社に依頼していた。自社で行っている部分の検査の質も低く、信頼に足るものではなかった。彼女は約10年間、類を見ないプレゼン力で周囲をだまし、会社を大きくしたのだ。

もちろん、当初から目利き力がある人は彼女の話に中身がないことを見抜いていた。医療機器に詳しいベンチャーキャピタルからの質問に彼女は答えられなかったし、ウォルグリーンが抱えていたコンサルタントの質問にも答えられなかった。米軍の陸軍医務局もだまされることはなかった。

それでも彼女は、人を魅了し続けた。あえて低い声で話をし、大きな青い目でまっすぐ相手を見つめた。ある時は涙ながらに「新生児集中治療室の赤ちゃんが採血されずに済みますように」と感情に訴えかけた。彼女と話している人は「まるで自分が世界の中心にいるような気持になる」そうだ。

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