自然と人間の優しい共存、琵琶湖システム

「Vite」の「ウロリとネギのスパゲッティ」

パスタの一皿は、「ウロリとネギのスパゲッティ」。ウロリはゴリとも呼ばれ、琵琶湖に生息するヨシノボリというハゼの仲間の小魚である。つくだ煮などで食べられるが、この日はニンニクの風味を移したオリーブ油でさっと炒めたウロリをパスタとあえ、上に白髪ネギ、炒めたパン粉をシチリア風に散らした。

琵琶湖の湖魚はこれにとどまらない。「Vite」の高岡ソムリエと岩原シェフは、今年2月末に東京の滋賀県アンテナショップ「ここ滋賀」(東京・中央)で滋賀県のワインと琵琶湖イタリアンの会を催し、冬の季節の湖魚も紹介した。

スジエビを裏ごししたスープはエビのビスクにも負けないほどの濃厚さがあり、殻は粉にしてグリッシーニという細いパンに散らし、スープにつけて楽しんだ。年に数日しか漁の許可が下りないアユの稚魚、氷魚(ひうお)は釜揚げにし、市内の水耕栽培者「湧水の恵みファーム」の規格外レタスを使ったサルサヴェルデ(グリーンソース)と合わせ、ほのかな苦味を楽しむことができた。

「Vite」の「濃厚なスジエビのスープとグリッシーニ」

折しも今年7月、琵琶湖と共生する滋賀県の農林水産業は、「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム」として、国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産に認められたばかりだ。琵琶湖のまわりの水田は、フナズシで知られるニゴロブナなどが遡上する場所で、湖魚に安全・安心な生育環境を提供してきた。また、エリ漁と呼ばれる待ち受け型の漁法は、水産資源を取り過ぎず、持続可能性がある。

「琵琶湖システムについては、実は僕はまったく知らなかったのですが、自然と人間の優しい共存の姿でもあり、滋賀県を世界にアピールする好材料になると思っています」と高岡ソムリエ。かつてイタリア料理店のシェフを中心とした活動により熊本県阿蘇地域が世界農業遺産に認められたとき、まだ認知度が低かったあか牛をシェフと生産者と熊本県が力を合わせてブランド牛に押し上げた。シェフやソムリエが生産者と消費者の間に立って地方の活性化に大きく貢献する姿は、これからもどんどん現れるだろう。

中村 浩子
イタリア食文化文筆・翻訳家。東京外国語大学イタリア語学科卒。イタリアの新聞社『ラ・レプブリカ』極東支局長助手をへて、文筆・翻訳へ。著書に『イタリア薬膳ごはん』(共著)『「イタリア郷土料理」美味紀行』、訳書に『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』(共訳)『スローフード・バイブル』。

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