
DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代、医療はどう変わっていくのか。生活習慣病の代表格ともされる糖尿病の専門医で、1990年代後半~2000年にかけて医療情報ポータルサイト(MediPro/MyMedipro)を立ち上げるなど、デジタル領域についても豊富な知見を持つ鈴木吉彦医師(HDCアトラスクリニック院長)に医療とデジタルの新時代について語ってもらいます。
第2次世界大戦が終わり20年後。山形県の農村で病院を営んでいた私の実家には、町内なら無料でかけられる「黒」電話がありました。町内限定だったので、電話番号はたったの3桁でした。
その電話がなると夜中でも母が起きて、寝ている父を起こし、往診に送り出していました。当時、開業医は救急車がわり。ひどい時には夜中に何回も起こされて往診へ。あまりの重労働に当時の医師の寿命は短いのが当然と考えられていました。戦争で多くの若者が亡くなり、同時に医師の数も減っていたからです。
夜中に往診にいった父は患者さんから、お礼に、とばかりにお酒をごちそうになり、車で送られて帰ってきました。でも酔いがさめないうちに、また呼ばれることもありました。
その後、医大の数が増え医師数が増え、救急車が発達することで、この問題は解決されました。
日本では、医師法第17条に、「医師でなければ、医業をなしてはならない」という規定があります。この法律が、昔は開業医の寿命を短くさせた原因のひとつとなり、新型コロナウイルス禍の中で、日本でのワクチン接種の開始の遅れや、病床が空いているはずなのに入院できない「幽霊病床」の理由となっているように思えます。