プロジェクトのプロセスについて、著者は「交渉」「タスクマネジメント」「計画」「見積もり」「契約」「要件定義」「デザイン」「設計」「テスト」「リリース」「保守改善」の11に分けて詳述する。

中でも、プロジェクトが失敗する原因の約5割を占めるとされるのが「要件定義」だ。要件定義は、7つの手順にわけて解説されているのだが、その一つが「『要求』と『要件』を切り分ける」だ。「発注者や意思決定者からの要求」と「プロジェクトの要件」を混同してしまうと、失敗の原因になるという。

例えばサイトをリニューアルするプロジェクトであれば、「パソコンでもスマホでもスムーズに見られるようにしたい」というのが「要求」であるのに対し、「要件」は「レスポンシブデザインにする」となる。Excelなどで管理する際、要求は「~したい」、要件は「~する」と表現し、列を分けるなどしてメンバーに共有することで、切り分けが明確になるという。

このように、指示がとことん具体的なのが本書の特徴だ。簡潔な文章でどんどん読み進められ、重要な部分はマーキングがされていて見返しやすい。

意思決定者の「ご用聞き」ではない

本文のほか、各章末に付されるコラムや「Q&A」にも興味深い情報がある。

一例が、「意思決定者がデザインに口出しして方向性が決まりません」という、デザインの進め方に関する質問だ。著者は、デザインの領域が「知識やリテラシーがなくても口を出しやすい」ことに触れつつ、プロダクトをよりよいものにするためには、意思決定者の「ご用聞き」になるべきではないと指摘する。

ただし、意思決定者がヘソを曲げてプロジェクト自体が止まってしまっては困る。したがって、やむを得ず意思決定者が気に入るデザインで進める手もある、との対策を示す。

さらにその先もある。実際にプロダクトがリリースされた後、ユーザーからのフィードバックによって意思決定者の好みが「正解」ではないと分かるかもしれない。その際、軌道修正が可能なよう、仮説を立てておくこと、代替のデザイン案を用意しておくことまで記すのだ。

プロジェクトマネジャーとは、権力を振りかざしたり、細かい指示を出してメンバーをコントロールしたりするのが仕事ではない。プロジェクトの成功に向けて、メンバー全員が気持ちよく仕事ができるようサポートし、プロジェクトとメンバーを守るのが役割の本質なのだ。

本書は、プロジェクトの現在地を確認してリスクを事前に把握したり、発生した問題の対策を検討したりする際に強力な武器となるだろう。手元に置き、何度も見返したい一冊だ。

(情報工場エディター 前田真織)

情報工場
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