
近年のスパイスカレーブームで、ファンが急増中の南インド料理。東京にまだ数えるほどしか南インド料理店がなかった15年前にその味に魅せられ、インド南部ケララ州の高級ホテル「CGH」のレストランで修業したのが、「カレー&オリエンタルバル 桃の実」(以下「桃の実」)オーナーシェフの瀬島徳人さん。
南インドの料理文化を独特のセンスでアレンジしたオリジナルのインド料理は多くの熱烈なファンを獲得。インド料理界の若きスターとして、特別なポジションを築いてきた。
東京の本郷3丁目にあった「桃の実」本店は、ボーダーレスかつエレガントなスパイス料理を提供する店として、姉妹店の水道橋店はカレー専門店として営業し、水道橋店は「ミシュランガイド東京」の2021年版ビブグルマンに掲載されるなど、高い評価を得ている。
その「桃の実」が2店を統合し、神田小川町に移転したというニュースは、カレーマニアの間に激震を呼んだ。
小川町の店では、新たにネパール人のシェフを招き、昼は旧水道橋店と同じカレーを提供するカレー専門店として、夜はプリフィクススタイルを中心としたメニュー構成で、タンドール料理(インドの土窯タンドールを使って作った料理)を中心に、主に北インド料理を提供する店として営業するという。
「カレー&オリエンタルバル 桃の実」が2021年10月に移転オープンしたのは、神田神保町から神田小川町に向かう靖国通りの路地を入った十字路の角地。向かいは小川町郵便局で、シンボルカラーの鮮やかなブルーが目をひく。
壁の色も、南インドの海の色を思わせる、明るくて鮮やかなブルー。「さわやかな感じにしたかったんです」と瀬島さん。
カレー好きの普通の会社員だったという瀬島さんは、人生初海外旅行でたまたま南インド・ケララ州を訪れる。ケララ州の料理は植民地時代の名残であるヨーロッパの影響を色濃く残しており、日本で食べていた「インドカレー」とは似て非なるものだった。
そのことに衝撃を受けた瀬島さんは、南インド料理の魅力を多くの人に伝えるべく、料理人への転身を決意。だが当時はまだ南インド料理ブーム前で、そもそも南インド料理を提供する店が都内にも数えるほどしかなく、その厨房で働けるのはインド出身の料理人に限られていた。
そこで国内での修業を断念し、思い切って25歳で渡印。運よくインド南部ケララ州の高級ホテル「CGH」のレストランの厨房で働くチャンスをつかむ。
帰国後、南インド料理店でシェフを務めつつ自然派ワインの魅力にもはまり、ビストロでワインやフランス料理の基礎を学ぶ。
2014年に、大好きな南インド料理とフレンチ、自然派ワインを融合させたボーダーレスなインド料理店「オリエンタルビストロ 桃の実」を本郷3丁目にオープン。2号店となるカレー専門店「カレー&オリエンタルバル 桃の実 水道橋店」を2017年にオープンした。