他社も参入してきたことでタイカレー缶ブームに

ブランド価値を上げるための一手

ツナ缶は、他社製品との差別化が難しいため価格競争に陥りやすい。実際、ブランドは意識せず、特売になっているツナ缶を買う人がほとんどだと思う。

ツナ缶メーカーは、原価を低く抑えようと原料から製造方法、パッケージなどあらゆる点で企業努力を続けている。今では製造コストが比較的安いタイから輸入販売する手法も一般的になった。

いなば食品もそんなメーカーの1社だったが、果てしない安売り競争に危機感を抱いていた。得意のツナ缶で、他社製品にはないオリジナリティーを打ち出しブランド価値を上げるにはどうすべきか――。何かヒントはないかと、タイの協力工場に「普段ツナ缶をどうやって食べるか」聞いたところ、「カレーの具にすることが多い」という回答を得た。

タイでカレーといえば、コブミカンやレモングラスなど、エキゾチックなハーブやスパイス類を使うことで知られている。折しも当時はタイ飯ブームが一巡し、タイカレーが受け入れられやすい地合いもあった。「ツナ缶のバリエーションとしてカレー缶を造ろう」。ツナとタイカレーが誕生した瞬間だった。

タイ米とセットになったタイカレー缶もいなば食品から発売された(限定発売)

ツナとタイカレーは、タイの協力工場で造られることになった。使われるハーブやスパイス類は、農薬の使用などを厳しく制限した契約農家から仕入れ、ていねいな手作業で仕込まれている。例えばコブミカンは、枝ごと工場に持ち込まれ、葉を1枚ずつ摘んで缶に入れている。赤唐辛子も包丁で刻んで使う。そんなこだわり製法で造られた本格的なタイカレーなのに、価格は小容量タイプが100円台、120グラム入りのレギュラータイプでも200円台と安価なこともあり、大ヒット商品へと発展した。

現在は具がチキンに変更されているが、タイの協力工場で造られていることには変わりない。根強いファンがいるロングセラー缶詰になっている。

缶つまとタイカレーがヒットしたことで、他社も類似の商品を続々と発売した。その結果、「おつまみ缶詰市場」「グルメ缶詰市場」「タイカレー市場」という新しいマーケットが創出され、缶詰業界が活性化。結果として、消費者の目が缶詰に向くようになり、メーカーは既存商品もブラッシュアップし、味に磨きを掛けた。18年のサバ缶ブームの背景には、実はこうした経緯があったのであります。

(缶詰博士 黒川勇人)

黒川勇人
1966年福島市生まれ。東洋大学文学部卒。卒業後は証券会社、出版社などを経験。2004年、幼い頃から好きだった缶詰の魅力を〈缶詰ブログ〉で発信開始。以来、缶詰界の第一人者として日本はもちろん世界50カ国の缶詰もリサーチ。公益社団法人・日本缶詰びん詰レトルト食品協会公認。

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