自宅に届くボックスには豆以外にフィルターや冊子なども付いてくる

「あなたの気づかない好みを一緒に探しましょう」

だが、下村さんは今、それだけでは足りないと思い始めている。消費者とはわがままなもので、安心感だけでなく意外性を求める人もいるからだ。診断で示された好みの範疇(はんちゅう)の外にも、もしかしたら自分がおいしいと思える豆があるんじゃないか、それに気づかせてくれないか――。未知の味を提示してくれる「サジェスチョン」への欲求だ。

「単に好みの味を届けるのではなく、それ以外の味も提案しながら『あなたの好みを一緒に探しましょう』という体験に変えたほうがいいのでは、と考えています。これを実現するための新しいコミュニケーションの仕組みを検討中です。例えばチャットなどの形式で、バリスタの接客をサイトに取り込むようなイメージでしょうか」

サブスクはコーヒーライフの入り口としては格好のサービスだが、自分で豆を選べるようになったらこれを〝卒業〟したいと思い始める顧客もいる。そんな人々をつなぎとめるための手は打った。有名ロースターと自社焙煎の豆を45㌘から購入できるZOZOTOWNのようなショッピングモールを、今年4月にサイト上にオープンした。

「まず20社のパートナーと始めましたが、ロースターの数はどんどん増やしたいですね。すでに多くの引き合いがあります。小さな焙煎業者が出店できるマーケットプレイスの開設も検討課題です。今はサブスクが事業の柱ですが、将来はそれ以外の通販の売り上げが逆転するでしょう」

思い描くのは、コーヒー通販の巨大なプラットフォームへの進化だ。さらに新ビジネスのアイデアはネットを飛び越え、リアルの世界にも広がる。

「今後強化したいのはオフライン。小売店の棚を確保して、ウチがキュレーションしたパートナーの豆をそこで売るとか。あとフェスを主催する計画もあります。ウチが扱うロースターの豆を最適な品質で淹れられる全自動コーヒーメーカーもいつか開発したい」

ポストコーヒーは昨年6月、ハリオ商事やファンドから1億5000万円を調達。今後も人材やシステムなどへの成長投資を計画している。新たな取り組みや構想に共通するのは、いかに顧客とコーヒーの距離を近づけ、接点を増やすか、という視点だ。

コーヒー市場は2000年代、多種多様な産地と品種の豆が身近になり、味わい方のバリエーションが増えた。そんな時代にはコーヒーの世界へと消費者を優しく導き、親身に助言する売り手の役割が重要になる。「もともと興味がない人がいても、ライフスタイル視点でアプローチすれば、コーヒーの良さに気づいてもらえると思います」。商品の知識だけでなく、「楽しさ」を伝える工夫次第で市場の裾野は広がる。下村さんはそう信じている。

(名出晃)

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