「言葉は通じる」は思い込み

世代ごとに全く異なる価値観や言葉の使い方、デジタル化によってますます希薄化するコミュニケーション――。こんな状況でも、理解しあうためにはどんな策が取れるのだろうか。

「前提として、『言葉は通じる』という思い込みは捨て、違う文化で育った、違う言語を話す人々とともに仕事をしている、と考えてほしいのです」とひきたさんは言う。こう考えることで、言葉が通じなくても、理解されなくても、落ち込むことは少なくなり、広い心で相手と接することができるはずだ。

さらに部下に何かを指示するとき、叱咤(しった)するとき、モチベーションを上げようとするとき、「自分が上司に言われたことを同じように言う」のは「もしかしたら相手を追いつめる言葉になるかもしれない」と考えておいたほうがよさそうだ。

ぜひ参考にしてほしいのが、本書に登場する対照的なふたりの上司。部下の心を強風であおる北風上司と、部下の心を温めて自らの成長を促す太陽上司。この2人の上司がそれぞれの部下や同僚に声をかけていくが、その様子から、どう部下に接すればいいのかが理解できる。

北風上司、太陽上司、それぞれの励まし法

例えば、満足に仕事ができなかった部下に対して、北風上司は「伸びしろがあると思うから叱っているんだぞ」とたきつける。平成世代なら上司から言われたおなじみのフレーズかもしれないが、それを令和世代にそのまま使うのは危険だ。「一見相手に期待しているように見えますが、『俺がこう評価しているのだから、その評価に見合うように働け』という暴君のような発言になってしまうのです」とひきたさんは分析する。

一方、太陽上司の励まし方はこうだ。部下に足りない部分を考えさせたうえで、自分の意見を伝え、最後にはおどけた口調でこう語りかける。「花田さんは、花田2.0バージョンが変わるときなんだ!」。「叱るときやシビアな話になるときは、相手に逃げ道や向かう方向を示すことが大切。部下の気持ちが沈んだままで終わらせないように、口調を変えたりして道化師になることが重要です」

本書では太陽上司と北風上司が30のシーンにわたって、部下に声をかけていく。部下は時に奮起し、癒やされ、心がラクになる。その一方で、追いつめられ、落胆し、傷つけられる……。その違いは一体どこにあるのか。ひきたさんが軽妙な語り口で解説していく。部下を1人でも持つ人、上司の言葉に揺れ動く部下の立場にいる人にぜひ読んでいただきたい一冊だ。  

(日経xwoman編集部 飯泉梓)

ひきたよしあき
博報堂フェロー、スピーチライター。1984年早稲田大学法学部卒。博報堂に入社後、CMプランナー、クリエーティブディレクターとして数々のCM制作を手がける。政治、行政、大手企業のスピーチライターとしても活動。社会人向けオンライン学習コミュニティー「S c h o o(スクー)」でコミュニケーションの重要性や、日本語の素晴らしさを分かりやすく伝える講義が大人気になるなど講演活動も数多くこなす。

人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方

著者 : ひきた よしあき
出版 : 日経BP
価格 : 1,650 円(税込み)