「歯を失うと、しっかり噛む必要がある肉などを避けるようになるため、たんぱく質が不足がちになり、筋肉量の減少にも拍車がかかる。滑舌よく元気に話せることは社会性の維持につながるし、嚥下がスムーズであることは誤嚥性肺炎の予防にもなる」(天野教授)。口腔機能の維持は老化抑制に欠かせないファクターなのだ。以下のセルフチェック表で自分の状態を確認し、少しでもリスクがありそうなら、すぐにケアを開始したい。

加齢とともに歯を失う理由の多くを占めるのが歯周病(歯周病のリスクについては6月10日公開の記事「歯周病が健康寿命を縮める 糖尿病や認知症にも悪影響」でも紹介)だが、「50歳を超えると過去に治療した歯の詰め物の下や歯茎の後退で露出した歯根で進む虫歯も増える」(天野教授)。私たちはどのようなことに注意して口腔ケアをすればよいか。

歯間ブラシで歯垢を除去 就寝前に念入りに

「歯と歯の間にたまる歯垢(しこう)除去に歯間ブラシは欠かせない。歯周病があると歯肉にブラシが触れるときに出血するため、早期発見もできる」(天野教授)。自分の歯のサイズに合った歯間ブラシの選び方や使い方は、歯科医院で歯科衛生士に相談するといい。歯間ブラシを用いると、歯ブラシのみのケアよりも出血が減少することが確認されている[4]。「歯磨き時に出血すると慌てる人がいるが、歯周病では歯周ポケット内で出血が常時起こっている。出血しても歯間ブラシで歯垢を除去し、歯周病菌の巣を取り除く方がはるかに重要。歯周病菌が減り、炎症が収まれば、出血は止まる」(天野教授)。

25人の被験者(18~35歳)を歯間ブラシ使用群と対照群に分け、1週間~3カ月後の歯間の歯垢を採取。歯間ブラシ使用群は3カ月後の出血割合が85%減少したが、対照群では27%減にとどまった。(データ:Sci Rep. 2019 Oct 22;9(1):15127.)

「就寝中は唾液分泌量が減少するため歯周病菌が増殖しやすい。そこで、就寝前に歯間ブラシと歯ブラシで念入りに歯垢を落とす習慣を」と天野教授は語る。歯と歯の間に歯ブラシの毛先を入れ、かすかに揺するように磨くのがコツ。「電動歯ブラシの場合は歯に当てるだけにする。動かすと毛先が細部にまで届かなくなってしまう」(天野教授)。なお、虫歯予防のためには、毎食後の歯磨きで食べかすをこまめに取り除くのが効果的だという。

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舌苔は歯周病菌の温床 舌ブラシでケア