2021/11/29
あぶった中トロのづけに卵黄をからめる。上質な材料にさらに手を加え、ここにしかない味を作る

表面だけをあぶったマグロは「づけ」にし、食べやすい厚みにスライス、そして提供前に一枚一枚、卵黄をからめ、味にコクとまろやかさを出す。

そして丼によそわれるのはご飯ではなくシャリ。これは「すし㐂邑」の要(かなめ)であるシャリと同じ味わいが楽しめるように、硬めに炊いたシャリを「すし㐂邑」でも使っている京都の飯尾醸造の赤酢と米酢をベースに、キリっとした味に仕上げている。

そのシャリを盛り付けるのはしゃもじではなく、手。その理由は手を使うことにより米粒をつぶさずふんわりと空気が入り、食べたときにぱらりとほどけるような食感になるからだそう。握りずしのシャリを再現しているのだ。

こっくりと濃厚な味わいの中トロにも手を加え、ここにしかないひとつの味を作る「仕事」にこだわる木村さんらしい仕上がり。

そこにこれぞ「㐂邑」というようなシャリの組み合わせは、どこを切り取っても相性がよく、まるでマグロのすしを食べたような満足感で満たされる。なるほど、スペシャリテならではの印象深い味わいだ。

こちらは、「季節の丼」より「頬肉のデミカツ丼」。

「季節の丼」。取材時は「頬肉のデミカツ丼」

先ほどの中トロの丼とはビジュアルも味の方向性もまったく違う丼に驚きを隠せないが、その理由を「18歳からまかないで丼をたくさん作っていた経験があり、肉も魚も野菜も丼ひとつでごちそうになる『丼』は自分にとって非常になじみ深いメニューなのです」と木村さんが教えてくれる。

「すし」の看板を掲げている「すし㐂邑」では、やはり海産物とシャリが構成の基礎になるが、こちら「きむら丼」では、ここだけの味を探求すべく、旬に合わせたさまざまな食材を使っているそうだ。

「木村さんといえば魚」という先入観があるが、まさかここで肉料理をいただけるとは……。

しかし、調理の端々に隠されたこだわりを見ていると、肉料理でもやはり「きむら丼」なのだということがわかる。

たとえば、国産牛の頬肉は揚げる前に圧力鍋で一度炊き、ホロリとした食感に仕上げる。味の要となるデミグラスソースは肉のコンソメをベースに、ユズ七味を加えることで和の仕上がりに寄せている。

ひと口食べるとサクリとした衣から牛肉がホロホロとほどけ、ソースの濃厚ながらさわやかな味わいが広がる。