例えば、「本能寺の変」ではプレスリリースを出すのは織田家や明智家ではなく本能寺だ。寺院に火を放たれ、何も悪いことをしていないのに近隣住民に迷惑をかけてしまった本能寺のリリースには、企業が知っておくべき危機対応の原則が盛り込まれている。

また、赤穂浪士の討ち入りを感動ともに描いた「忠臣蔵」では、討たれた吉良家側の広報担当者として、いかに現代に伝わる“ストーリー”が一方的であるかを理路整然と訴える。「池田屋事件」ではプライバシー保護の甘さを指摘し、薩英戦争の引き金となった「生麦事件」で無礼斬りをされてしまった英国人については「ワーケーション中の事故だったのでは?」との疑問から、従業員に対する企業の安全配慮義務について問題提起する。筆者の手にかかれば、大仏造立に貢献した行基はインフルエンサー、「おくのほそ道」の松尾芭蕉は超人気の旅行系ユーチューバーだ。つまり、本書に収められた42本のエピソードとプレスリリースは、すべて現代の我々のビジネスや生活における関心事に着地するよう仕組まれている。

「大政奉還」のプレスリリースはこうだった?

何はともあれ、百聞は一見にしかず。本書のタイトルでもある「大政奉還」に関するエピソードから一部抜粋しよう。

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「幕末」「明治維新」といっても、一晩でガラリと体制が変わったのではありません。その後の王政復古の大号令、戊辰戦争、版籍奉還、廃藩置県、西南戦争の鎮圧と、幾つものステップを踏んで進んでいきます。

我々は大政奉還が出された段階では大したことは決まっておらず、その場しのぎ、見切り発車的だったことを知っています。しかし幕府としては、正直にその不安を吐露するわけにはいきません。何とかもっともらしい未来を描いているように振る舞わなければならなかったはずです。

そこに相当な葛藤があったことは想像に難くありませんが、幕府の広報であればこのとき、どんなプレスリリースを書いたのでしょうか。そしてどう振る舞えば、幕府が存在し続けるという現在とは異なる未来を創ることができたのでしょうか。そこにはマスコミの反応を先読みする広報としての戦略があったはずです。プレスリリースで追体験してみましょう。