
京王電鉄京王新線・幡ヶ谷駅北口より徒歩5分。六号通り商店街の路地にあるフランス料理店「ビストロ ノブ」。
ひとりでも入りやすく、また子供連れも歓迎してくれる懐の広さに、普段使いしたいフレンチレストランとして特に地元の人たちから愛されている店だ。
1.「ビブグルマン」に3年連続選出、幡ヶ谷の愛されフレンチ
2.天然鮮魚のみを使う魚料理が自慢 人気の「トウキョウブイヤベース」
3.愛情たっぷりの「お子様メニュー」も 子供連れでも楽しめる
カウンター席があるのは、もともとすし店だった名残。
こぢんまりとした店だが、そのコンパクトな空間がむしろ心地良くリラックスできる。
秋はブドウ、冬は松ぼっくり……など季節によってどこかしら店内のディスプレーを変えているので、違いを探してみるのも面白い。
オーナーシェフの貝原塚信彦さんと、ワイン担当の奥様の二葉さん。
信彦さんはアメリカ留学で経済学を学んだ後、料理の道へ。都内のカジュアルフレンチや三田「コート ドール」といった高級店で経験を積み、自分の店を持とうと思い始めた時、ある出来事が起こる。
東日本大震災だ。
奥様の二葉さんが人道支援の仕事をしていたこともあり、震災後すぐに夫婦で岩手県にて炊き出しを行うことになる。避難所の調理室で、680人分の食事を作る日々が続いた。
「初めのころは寒さも厳しく、調理機器も足りず、お湯を沸かすだけでも大変な状況でした」と信彦さん。
工夫を重ね、おでんやひっつみ汁(岩手の郷土料理)などが提供できるようになると、信彦さんの中に、料理に対してひとつの確信が生まれた。
それは「温かいものを食べて、ホッとすることで人はいやされる」ということ。
そして9カ月後、「ビストロ ノブ」がオープン。
もともと、日ごろフレンチを食べなれていない層の人たちにも気軽に来てもらえるような店をと考えていたこともあり、東日本大震災の復興支援を通して「普段着で行けるアットホームな店」にしたいという思いが固まった。
「高級食材を使うより、地元で手に入る食材を使った素朴なフレンチにしようと思ったんです。カジュアルな方が性に合ってますし」と信彦さんは笑う。
そんな庶民派に徹底しているにも関わらず、なんと「ミシュランガイド東京」のビブグルマン(6000円以下で食事ができるコスパの良い店)に2018年から3年連続で選ばれている。コストパフォーマンスがよく、質の良い料理が楽しめるという揺るぎない証拠だ。
「ビストロ ノブ」といえば、魚料理の良さが評判。特に鮮度を重視しており、魚は冷凍や養殖物は使わず、その日使うものだけを仕入れるようにしている。
見せてもらったのはブイヤベースに使う青森産のヒラメ。もちろん天然。かなり大きいサイズだ。
「この近所にとても良い魚屋さんがあるので、そこで仕入れています。日によってはもっと大きなヒラメが入ることもありますよ。ヒラメはなるべく身が厚いものを使うようにしています」(信彦さん)
その時期の仕入れによって素材が変わることもあるが、この日の魚介はホタテ、ムール貝、白イカ、ヒラメ、そして天使のエビ(パラダイス・プローンという品種のエビ)を使用。時季によっては白子やカキを使うことも。

そして できあがったのが、「ビストロ ノブ」の人気メニュー「トウキョウブイヤベース」。
なぜ東京なのかというと、食べにきたフランス人が「本場フランスのブイヤベースとはちょっと趣が違うけれど、すごくおいしい。これはトウキョウのブイヤベースだ」と絶賛したから。
まずはひと口スープをすすると……
口の中にうま味が一気に押し寄せる。確かに、食にうるさいフランス人も思わずうなる味だ。
アナゴやカサゴのアラからだしをとり、そこにタマネギ、セロリ、ニンジンを加えて、ハーブで味を整えたスープは、それぞれの素材のおいしさがギュッと濃縮されているかのような、まさにうま味の宝庫。
添えられたアイオリソースを加えると、今度はガーリックの香りが立ち込めてより風味豊かでクセになるおいしさに。