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「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を頻繁に目にするようになった。自社がDXに取り組み始めたという人も少なくないだろう。人の手で行っていた作業が自動化される、対応できる人材が必要になるなど、DXはビジネスパーソンにリスキリングが求められる理由でもある。

しかし、そもそもDXとは何か説明できるだろうか? DXに取り組むにも、求められる人材を目指すにも、まずはDXについて理解を深めるところから始めるのがよさそうだ。

そこで手に取りたいのが、本書『1冊目に読みたい DXの教科書』である。DXとは何か、DXを支えるデジタル技術といった基本から説き起こし、成功事例や実現に向けたプロセスなどを丁寧に解説する。全編カラーで図が多用され、感覚的な理解を助けてくれるのもありがたい。

著者はデジタルトランスフォーメーション研究所代表取締役DXエバンジェリスト。慶応義塾大学法学部、グロービス経営大学院卒で、企業や地方自治体のDX支援を行っている。

DXとは「データを活用できる状態」

まず、DXとは何か。著者は「データを活用できる状態になる」ことだと述べる。その意味で、ペーパーレス化やオンライン会議の導入はデジタル化にすぎず、DXではない。

経済産業省のガイドラインに基づいていえば、DXとは企業が「データとデジタル技術を活用」し、「製品やサービス、ビジネスモデルを変革」することだ。さらに、「業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革」し、「競争上の優位性を確立すること」と定義される。これには、経営者が率先し、トップダウンで取り組むことが欠かせない。

DXを実現した有名な例が、本書にも紹介される建設機械大手のコマツだ。建機の製造販売、保守サポートを手掛けていたが、コマツの顧客には、最適な工事計画の立案、進捗の把握などが困難だという課題があった。そこでコマツは、これらの課題を解決するデジタルサービス「スマートコンストラクション」を開発して提供した。顧客は、建機の稼働状況などのデータを収集、分析し、建設工事の全プロセスをデジタル管理できるようになった。

この例では、コマツはデータやデジタル技術を活用し、建機という「モノ」を売るビジネスモデルから、建設工事のプロセスを管理できる「コト」を売るビジネスモデルへと進化した。

DXに用いられる技術として、本書では「IoT」「5G」「ビッグデータ」「データサイエンス・AI」「ロボット、RPA」「クラウドコンピューティング」が紹介されている。もっとも、よく指摘される通り、これらは手段であって目的ではない。重要なのは、企業がDXで実現したい「目ざす姿」を描いたうえで、ツールとしてデジタル技術を用いることだ。

コマツでいえば、「建設工事の全プロセスをデジタル管理できるようにする」という姿を描いたうえで、データやデジタル技術を用いてスマートコンストラクションを開発した、ということだ。

中長期ビジョンと矛盾しない取り組みを

DXと一口にいっても、その戦略はさまざまだ。コマツの例は、もとの商品をデジタルサービスに包含させる「包含戦略」と紹介される。新聞や雑誌、音楽、映画といった商品をデジタルコンテンツに転換する「転換戦略」では、各種ニュースサイトやポッドキャスト、スポティファイなどの音楽配信やネットフリックスといった動画配信サービスが生まれた。

ECサイトや店舗で集めた顧客の嗜好データをもとに商品を直接的に提供する「D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)戦略」、データをもとに仕入れ先まで含めたプロセス全体で生産や出荷の仕組みを構築し、顧客に個別最適化したモノを提供する「C2M(コンシューマー・ツー・マニュファクチャラー)戦略」などもある。これらから、自社の商品に適用できるものがないか、可能性を探る手掛かりがつかめるのではないだろうか。

ただし、いきなりDXはハードルが高く、足元のデジタル化から進めたいというケースもある。その場合は、並行して中長期的なビジョンについて検討を進め、足元の取り組みと整合性をとることが重要という。また、経営トップの危機感が薄く、個人やグループが自発的にDXに取り組む「ボトムアップのDX」もある。これが成功する唯一の道は、経営陣を巻き込むこと。著者は、勉強会の開催などで仲間を増やし、小さな試みの成功事例から全社のDXへの機運を高めることを勧めている。

デジタルやITに苦手意識がある人も、自社のDXへの機運をそがないためにリテラシーを高めたい。使ったことのないサブスクリプションのアプリを使ってみる。SNSやメタバース、暗号資産といった新しいものを拒絶せずに試してみる。そうしたことがインプットの質を高め、変化に対応するスキルにつながっていくという。

本書を通読すれば、DXの基本を理解し、成功までのプロセスをイメージできるはずだ。基本から学びたい人だけでなく、自社のDXの取り組みに行き詰まりを感じている人にも、ヒントを与えてくれるに違いない。

(情報工場 エディター 前田真織)

情報工場
広い視野と創造力を育成する「きっかけ」として、様々な分野から厳選した書籍をダイジェストにして配信するサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を展開している。「リスキリングbooks」は、「SERENDIP」で培った同社ならではの選書力を生かし、リスキリングに役立つ書籍を紹介する。

1冊目に読みたい DXの教科書 (なるほど図解)

著者 : 荒瀬光宏
出版 : SBクリエイティブ
価格 : 1,540 円(税込み)

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