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「解決」という理想の状態をイメージする質問とは?

篠原さん そしてもう一つ、ソリューション・フォーカスで用いられているのが「ミラクル・クエスチョン」という質問です。

いうなれば、未来に向けて想像をする質問をするのです。

もしも奇跡が起こって今晩眠っている間に、あなたの不安や悩みがすべて解決してしまったとします。奇跡は眠っている間に確実に起こっている。

もしもそうなら、あなたは朝起きてから、どの場面で自分に奇跡が起こったことに気がつきますか?

このように、「奇跡が知らないうちに起こった前提」で投げかける質問です。

ミラクル・クエスチョン
「奇跡が起きて、あなたの問題がすべて解決したとします。だとしたら、あなたはその奇跡が起こったことをどんなことから気づきますか?」

――一見すると、非現実的な質問ですね。

篠原さん そうでしょう? でも、あえてこういった質問をします。

問題を抱えた状態だと問題があるのが当たり前になってしまっている。解決すら想像できない状態です。しかし、この質問により、解決した、という理想の状態をイメージすることができます。

奇跡は起こる。その朝について、ビデオ映像のように思い浮かべるのも一つの方法です。

「うーん、よくわからないけど、腰に手を当てて歯磨きしているときに、なんともいえないいい気分が湧いてくるかも」と思い浮かんだら、「とりあえず明日の朝、それをやってみましょう」とアドバイスします。

これを心理学用語で「身体化された認知」と言います。人の脳は独立しているわけではなく、体というインターフェースによって稼働する。体が実際に脳に影響を与えるのです。「うまくいくわけない」とネガティブループをぐるぐる回していた状態から、思考を別の場所に飛ばすことができるわけです。

――サバイバル・クエスチョンも、ミラクル・クエスチョンも、悩んでいるときにはなかなか出てこない発想だからこそ、悩んでいるときは「原因探し」に固執してしまう、ということがよくわかりました。

篠原さん 原因探しのロジックは、多くの人がハマりやすいのです。

 たとえば、新型コロナウイルス感染症で言うと、「新型コロナウイルス」が原因ですね。しかし、感染して重症化し、肺炎になって苦しんでいる人に対して優先されるべきは「肺炎を治す」ことであって、感染源になったウイルスがどこに存在していたのかを追究してもしょうがないですよね。心理的問題においても同じで、原因をいじくってもしょうがない、それよりもソリューションにフォーカスしようよ、というわけです。

理屈重視で生きていると、「原因を押さえれば結果が変わる」という思考モデルで考えがちですが、ソリューション・フォーカスのほうが事態の改善には効果的です。生活習慣病っていろんな原因があるけど、とりあえず運動をすればなんとかなるんじゃね? と、解決に持っていくのがソリューション・フォーカスといえるでしょう。

◇   ◇   ◇

次回は、アイデアに詰まったときに「ひらめきやすい脳」にする方法を聞く。

(ライター 柳本 操)

篠原菊紀さん
公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授。医療介護・健康工学研究部門長。専門は脳科学、応用健康科学。遊ぶ、運動する、学習するといった日常の場面における脳活動を調べている。ドーパミン神経系の特徴を利用し遊技機のもたらす快感を量的に計測したり、ギャンブル障害・ゲーム障害の実態調査や予防・ケア、脳トレーニング、AI(人工知能)研究など、ヒトの脳のメカニズムを探求する。

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