
井上芳雄です。8月14日からミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』の公演が東京で始まり、19~22日までの大阪公演を経て、24~31日に東京に戻ってきます。ジーン・ウェブスターの小説『あしながおじさん』を原作にした2人芝居のミュージカルで、初演から坂本真綾さんと演じてきて、今年で10周年を迎えました。今回も真綾さんが出演される予定だったのですが、出産にともない出演を辞退されたので、新たに上白石萌音さんが参加してくださいました。多くの人に愛されてきたこの作品を、また新たな形でお届けできていることに胸を躍らせています。
『ダディ~』の登場人物は2人。孤児院で育ち、類いまれな文才を持つジルーシャと、彼女の才能を見抜き、月に一度の手紙を自分宛てに送ることを条件に、大学に行く学費を援助する慈善家ジャーヴィスです。2人は別々の場所にいるため、舞台上では顔を合わせることがなく、ジルーシャが書いた手紙を通して、お互いの気持ちを表現します。
2012年の初演からだいたい2年に1回くらい再演をしていて、今回が6回目の公演です。萌音さんはもともと『ダディ~』が大好きで、見に来てくれていました。ジルーシャという役柄にぴったりだねと話していた気もします。それもあってか、急な話だったのですが、引き受けてくれました。ジルーシャという役はセリフが膨大だし、やることも多く、覚えることがいっぱいあって本当に大変な役です。しかも今回は稽古の日数が少なく、僕は2日間くらい稽古したあと、7月の後半はミュージカル『ガイズ&ドールズ』の公演で福岡にいました。その2週間くらいの間は、萌音さんだけが稽古を続けていて、僕が福岡から戻ってきたときには、役を一通りできるようになって、すっかりジルーシャになっていました。この短期間にすごく頑張ったんだなと感心しました。
僕がいない間、稽古場代役としてジャーヴィス役をやってくださったのが今拓哉さんです。今さんは、僕が『エリザベート』で初舞台に立ったとき、楽屋が一緒だった先輩。まだ学生で何も知らなかった僕に、舞台のイロハから教えていただき、大変お世話になりました。そんなミュージカル界の大先輩が、稽古場代役を引き受けてくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。とても懐が広い方だとあらためて思いました。「この作品が大好きだったので」とおっしゃって、セリフも全部覚えて、完璧にやってくださりました。
僕も真綾さんもこの作品が大好きで、多くの人に見てほしいと思って10年やってきました。そして、萌音さんも今さんもそうですけど、この作品を愛する人たちに支えられて、今回またやれることになったという思いを強くしています。
脚本・演出のジョン・ケアードは『レ・ミゼラブル』などの演出を手がけた世界的な演出家です。最近は『ナイツ・テイル-騎士物語-』『千と千尋の神隠し』と日本でオリジナル作品も手がけています。2年前に『ダディ~』を再演したときは、もうコロナ禍で、イギリスからリモートで稽古に参加してくれました。今回は来日してくれて、萌音さんが直接ジョンから稽古を受けられたのでよかったと思います。萌音さんは『ナイツ・テイル』『千と千尋~』でもジョンと一緒にやっていて、気心が知れています。