きっかけは東芝の株主総会でした。昨年の定時総会ではアクティビストが当時の社長の退任や自ら選んだ取締役の選任を求める株主提案を行いました。この提案は4割近い賛成を得たものの、否決されました。ところがその後、アクティビスト側は定時株主総会の運営が公正に行われたかどうかの調査を求め、臨時株主総会の招集を請求。2021年3月の臨時総会では調査委員会の設置を求める株主提案が可決されました。さらに、6月の定時総会の取締役選任案の採決では会社側が提示した取締役会議長ら2人の再任案が反対多数で否決される事態になりました。

臨時総会に続き定時総会でもアクティビスト側の主張が通ったのは、機関投資家や個人株主が賛同したからです。日本の機関投資家も従来のように発行体との関係性を過度に配慮するのではなく、独立した判断をするようになりました。そして何より、個人株主が株主総会での重大案件の成否を握りました。これはすごいことです。アクティビストと機関投資家の賛成票だけでは過半数に届かなくても、そこに個人株主が賛同することで、ひっくり返るわけですから。それが実際起きたというのは日本の上場企業の株主総会史上初めてでしょう。

日本株は今後波を打ちながら上がっていくという

日本人は米大統領選や英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票のように国民の1票で国の重大事項が決まるという経験をしたことがありません。そうした中で、個人投資家たちはたとえ一株株主であっても自分たちが投じる1票には意味があり、投票することで会社は変わり得るということを実感した。そのインパクトは強烈でした。

東芝だけではありません。21年6月末の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の株主総会には環境NGO(非政府組織)の代表者らが個人株主として参加し、気候変動への対策強化に向けた定款変更を提案しました。総会会場の外にも環境アクティビストの人たちが集まり、横断幕を掲げ、MUFGに行動を起こすよう迫っているのをニュースでご覧になった方も多いでしょう。国会議事堂前でもなければ首相官邸前でもなく、1企業の株主総会でこうした光景が繰り広げられ、世間の注目を集めるなんて、少し前までは考えられなかったことです。

ESGに取り組む企業 市場で評価

今回、NGO代表者らの株主提案は否決されたものの、23%の賛同を得ました。これは企業にとっては大きなプレッシャーです。何かのきっかけで来年はもっと賛成票が増え、場合によっては半数を超えるかもしれません。MUFGも手をこまねいているわけにはいきませんから、総会前に脱炭素に向けた具体的な取り組み方針を公表しました。「定款の変更には反対だが、株主提案で言及されている内容は経営戦略にすでに反映させていますよ」というわけです。

これは非常にエポックメーキング(画期的)な出来事だったと思います。何かしらの社会課題を解決したいと願う人たちの思いが、株主総会という場を通じて実現に近づく。個人株主としての1票が企業、そして社会を変えていく。そういう流れが日本でも始まっているのです。ESGに本気で取り組む企業は市場でも評価されますから、その意味でも私は、日本株は今後波を打ちながら上がっていくと見ています。

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