大学での講義だけでなく、論文執筆や研究資金の獲得、学生への指導なども研究者の仕事だ。「空き時間に雑用を終わらせるなど、効率をあげて工夫している」。料理は川口さんで洗濯は夫、と夫婦で家事を分担して乗り切る。名古屋大学では、幼い子どもを育てる教職員の授業担当を軽くするなどの支援体制があり、それらにも助けられているという。

研究者として力を発揮する時期と子育て期が重なりやすいのは、とりわけ女性に多い悩みだ。研究者同士で協力し合う動きも生まれている。

数理的なアプローチで社会の問題を分析して解決法を見いだす研究をする筑波大学の佐野幸恵助教は、民間企業を経て博士課程に進学、35歳で学位を取得した。取得前の34歳で結婚。37歳で出産した。

「育児も研究も大事だが、リソースは限られる」。出産前のように自由に時間を使い研究することは難しくなった。だが別分野の子育て中の研究者と学内の保育所で知り合い、子どもにセンサーをつけての共同研究を始めるなど「研究テーマは広がった」。ローテーションを組んで互いの子どもの面倒をみたりもする。学内には小学生以下の子どもを持つ人向けの助成制度もあり、アルバイトを雇ってデータ処理の補助を頼むなどして、時間を捻出する。

女性研究者の割合、OECD加盟国で最低水準

日本は女性研究者の割合が他の先進諸国と比べて低い。

総務省の調査では、全ての研究者に占める女性の割合は約18%にとどまる。経済協力開発機構(OECD)加盟国では最低の水準だ。科学技術の進歩には、多様な視点を取り入れることが欠かせない。

また理工系を目指す女子学生も少ない。学校基本調査によると、保健や農学も含めた理系の学部生の女性比率は38%、工学系では16%にとどまる。優れた女性研究者に贈られる猿橋賞を15年に受賞した米テキサス大オースティン校の鳥居啓子教授は「女性研究者の知名度向上やロールモデルの存在が必要だ」と話す。子どもたちが研究者に親近感を抱く環境が、裾野拡大には重要だという。

女性研究者を増やすには「大学や研究機関のトップに女性を増やすことも欠かせない」と強調する。「『論文などの業績を評価する期間から育児休業期間を除く』といった、女性に配慮した人事制度はトップダウンで進めるのが望ましい」と話している。

大学主体で採用・育成を
女性研究者は日本では身近ではないかもしれないが、例えばmRNAワクチン開発の立役者となったカタリン・カリコ氏など世界を見れば多くの女性が活躍している。

横浜国立大学の二神枝保教授によると、フランスでは女性研究者を増やすため数値目標を掲げており、同じ能力なら女性を優先して登用しているという。仏大学長会議が主体的に動いている。

日本では、国立大学などは予算配分する国が女性教員の採用を推進しており、大学の主体性に欠けると感じる。二神教授は「女性を採用して終わりではなく、昇進や人材開発、業績評価も含めた体系的な人的資源管理が不可欠だ」と話す。
(藤井寛子) 

[日本経済新聞朝刊2022年1月17日付]