同じく浅間温泉にあった1686年創業の老舗旅館を、全室源泉かけ流し露天風呂付きブックホテル「松本本箱」とベビー&キッズ歓迎の「ホテル小柳」という隣り合う2つのホテルに再生した宿が「松本十帖」だ。近くには宿泊者以外でも利用できる「Cafe & Bar おやきと、コーヒー」と「 Cafe 哲学と甘いもの。」を備える。前者は風情ある黒塀の古民家で、松本十帖のレセプションになっている。2階でおやきと飲み物をいただきながら、チェックインするスタイルもユニークだ。

天井までの本棚、読書がアクティビティに

松本十帖は旅館再生にあたって「岳」「学」「楽」という「松本3がく」をテーマに取り入れている。本という学びに、北アルプスの眺めや豊かな食の楽しみなどを取り込んでいる。また、スケルトンにした元の躯体(くたい)をモダンに生かし、建築の中に一部、赤い毛氈(もうせん)を引いた大階段や大浴場を組み込んだスタイリッシュな建物自体も楽しめる。

天井の鏡が効果的な「オトナ本箱」は、大浴場をリノベーションしたユニークな読書空間になっている

松本本箱は、エントランスを入ると天井まで書棚があり、全体が図書館のよう。地域コミュニティの中での本屋も兼ねており、新刊書や雑誌も置いている。あちこちにテーブルや人が潜り込めるようなちょっとしたスペースがあり、読書にふけることができるほか、すべての本は購入できる。元の大浴場は「本に溺れる」をコンセプトに大人向けの「オトナ本箱」や、迷路のような楽しさとボールプールを備えた「こども本箱」があり、ここでは読書がアクティビティになっている。

『三六五+二』での朝食。滋味あふれるアロイトマトのミネストローネを楽しみながらの読書もいい

ローカルガストロノミーをテーマにした2つのレストランのうち、『三六五+二367)』は365日、日々変わる信州の風土に文化と歴史を加えた367という数字が店名。これは千曲川・信濃川の総延長も表現していて、信州の山々から日本海に至るまでの間の食材を選び抜き、その滋味を堪能させてくれる。

夕刻にはスタッフが浅間温泉を歩きながら松本城主が愛した御殿湯、地元住民専用の共同湯や道祖神などいろんな話をしてくれるツアーもあり、浅間温泉とつながった気分になれた。松本から浅間温泉へ。歴史、風土が培う様々な魅力を堪能してみてはどうだろう。

小野アムスデン道子
世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスに。東京と米国・ポートランドのデュアルライフを送りながら、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。日本旅行作家協会会員。