
長野県松本市は、松本藩の城下町として栄えた。第2次世界大戦の戦火を逃れたことで国宝の松本城や旧開智学校をはじめ、文化財や歴史的建造物が数多く残る。また、ちょっと足をのばせば松本城のお殿様にも愛された浅間温泉で湯につかることも。2022年2月に松本城周辺で開催された「マツモト建築芸術祭」の会場にもなった名建築を振り返りながら、浅間温泉で長野のワインや名湯を堪能する旅をご紹介しよう。
松本城を中心に白壁と黒なまこの土蔵造りの建物や、西洋風に模した近代の看板建築などが残る。通りをそぞろ歩きしながら、ふと見上げると北アルプスの美しい山並みが姿を見せ、自然の豊かさも感じさせてくれる。そんな松本でこのほど開催されたのが「マツモト建築芸術祭」。名建築とアートを融合させて新たな街の魅力を発信するイベントだ。
芸術祭自体はすでに終了したが、建物を事務所として使いたい、といった声も寄せられ、同芸術祭実行委員長の斎藤忠政氏は手応えを感じているという。斎藤氏は松本出身でこうした名建築で飲食店や宿泊施設を運営する扉ホールディングスの代表取締役。近年、維持が難しくなった建物を取り壊し、建て替えたり、更地にして駐車場として利用するケースを目の当たりにしてきた。そこで、なんとか名建築を観光資源にし、域外から人を呼び込んだり、地元市民にその価値を再認識してもらったりするためのイベントを目指した、と芸術祭開催の動機を明かす。

斎藤氏が運営する「レストラン ヒカリヤ」は、信濃の要衝として栄えた松本に明治20年(1887年)に建てられた商家を生かしている。取り壊される予定だったが、2007年に現在の「ニシ」と「ヒガシ」のレストランが入る店として再生。ナチュレフレンチ(ニシ)と日本料理(ヒガシ)が味わえる。国登録有形文化財や松本市近代遺産にもなっており、なまこ壁に黒漆喰(しっくい)の外壁や観音扉付きの窓など当時の美しい姿を今にとどめている。フレンチのニシではウェルネスガストロノミーをコンセプトに根菜や山葵(ワサビ)、川魚など地産地消の食材を中心に繊細で滋味豊かな料理が楽しめる。