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ムハマド・ユヌス氏 ©Yunus Centre

ムハマド・ユヌス氏 ©Yunus Centre

マイクロクレジット(無担保少額融資)のグラミン銀行を創設し、世界の貧困解決に貢献したことでノーベル平和賞を受賞した経済学者で社会起業家のムハマド・ユヌス氏。新型コロナウイルスによるパンデミックが今なお続く世界で、ワクチンをめぐって先進国と発展途上国との間で格差が広がっている現状を憂慮する。作家でコンサルタントの佐藤智恵氏がインタビューした。

人間の命と経済、どちらが大切か

佐藤 新型コロナウイルスの感染拡大がはじまって以来、ユヌス博士は「新型コロナワクチンの特許権は永久に放棄されるべきだ」と訴えつづけてきました。その理由は何ですか。

ユヌス 人間の命と経済、どちらが大切ですか。私にとっては命が大切です。私たちは「人々の命を守ることを優先した経済」を創出しなければならないのです。

そもそもワクチンは何のためにあるのですか。人々の命を守るためです。どこかの政府や企業がもうけるためのものではありません。「自分さえ生き残ればいいのですか」。これがいま、私たちの目の前につきつけられている質問です。しかも、パンデミック下では、世界のどこかに感染者がいる限り、感染リスクはなくならないのです。日本の皆さんは「日本はすでに十分な数のワクチンを確保しているし、感染者数も死者数も抑えられているのだから、大丈夫だ」と思うかもしれません。しかし、全然大丈夫ではないのです。現代の世界は国同士が緊密に連係しあっています。ウイルスは回り回って周りの国からやがて日本に戻ってくるのです。

新型コロナウイルスの変異株はいまも世界中に広がりつづけています。アルファ株、ベータ株、ガンマ株、そして現在はデルタ株が猛威をふるい、世界各国で感染者数、死者数が急増しています。私の住むバングラデシュでもデルタ株のまん延にともない、亡くなる人の数が急激に増えています。

さらにデルタ株の変異ウイルス、デルタ・プラス株も新たに確認されています。このデルタ・プラス株はデルタ株よりも強い感染力をもっていると言われています。私たちは新たな変異ウイルスから逃れることはできません。世界中のすべての人々ができるだけ早くワクチン接種を完了させなければ、ウイルスはどんどん感染力を高めながら変異し、初期のウイルスをもとに開発されたワクチンの効果はいずれなくなってしまうでしょう。

いま世界に必要なのはワクチンをできるだけ多く生産することです。プロダクション、プロダクション、プロダクションです!ワクチンが不足していれば、世界の全人口80億人に接種することができません。仮に集団免疫が人口の70%の免疫獲得で達成されるとしたら、少なくとも110億回分のワクチンが必要です。短期間に集団免疫を確立しなければ、別の変異株がどんどん広がってしまいます。新たに開発されたワクチンを接種したとしても、接種のスピードが変異株においつかなければ、また次の変異株が出現します。そうなれば、いまよりももっと多くの人々が亡くなる事態になります。

ワクチン接種において、誰一人取り残さないことが必要です。取り残してしまえば、ウイルスは再び、世界に拡散します。

誰一人取り残さないワクチン接種を推進するために障壁となっているのが、特許権です。製薬企業は特許権を放棄したがりません。製薬企業にとって、ワクチンの特許権は金のなる木だからです。また製薬企業はワクチンを大量に生産したがりません。不足していたほうが値段交渉で優位にたてるからです。製薬企業が自社の利益を最優先して、ワクチンを製造していること。これがワクチン不足の主因なのです。

この障壁を民意の力でとりはらわなくてはなりません。特許をすべて公開し、あらゆる製薬企業がワクチンを生産できるようにすべきです。

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