
まず北イタリアは、ヴェネツィアがあるヴェネト州のロングパスタ、「ビーゴリ」。板についたハンドルを回して、板の下からパスタを絞り出す専用道具でつくる。「ビーゴリ・イン・サルサ(ソースのビーゴリ)」は、玉ネギとアンチョビのシンプルなソースで食べる。
次に、中部イタリア。エミリア・ロマーニャ州では主に、軟質小麦粉に卵を加えたパスタ生地を使う。有名なのは、タリアテッレのラグー(ミートソース)。詰め物パスタも多く、鶏胸肉やリコッタなどを詰めた「カッペッレッティ」もそのひとつ。

ねじったり、編みこんだり、はさみで細工したりする〝手工芸〟のようなパスタが多いのが、サルデーニャ州。イタリア本土の西に浮かぶ大きな島だ。この州はもともと金銀細工や刺しゅうなど工芸品が多いので、島民の器用さから来ているのだろう。ギョーザかと見まがう詰め物パスタ「クルルジョネス」も、生地の縁を編みこむ。生地は軟質小麦粉、詰め物はジャガイモ、リコッタ、ペコリーノチーズ。もともと、イタリアの主要宗教であるキリスト教カトリックの特定の祝祭日につくられたパスタだった。

南イタリアのバジリカータ州ほかでつくられるのが、先にお話しした「ラガネ・エ・チェーチ」。古代ローマ時代の兵士たちも食べていたメニューだ。チーズはかけずにヒヨコ豆の優しい味わいを楽しむ。
最後に、シチリア州は次回にお話しする乾燥パスタ発祥の島だが、もちろん生パスタもある。イタリア全土にホウレン草やトマトペースト、イカスミなどで風味・色づけした「練りこみパスタ」があるが、シチリア東部にあるのが「カッルーバ(イナゴ豆)」を練りこんだタリアテッレ。イナゴ豆はシチリアではココアの代わりに使われる。イワシとフィノッキエット(野生のフェンネル)のソースで食べる。

「生パスタのいちばんの魅力は、茹でるとはじけるような弾力の乾燥パスタとはちがう、その歯ごたえにあります。その土地ならではの形状も魅力です」と小池シェフはいう。地元の粉が地元の特産物と結びついてできた生パスタ。そこには、その土地の歴史や風土、地元民の気質まであらわれているのだ。