生パスタはギリシャ由来 イタリアの風土映して七変化イタリア美味の裏側(8) イタリア食文化文筆・翻訳家 中村浩子

「富士麺ず工房」の生パスタを使った「タリオリーニ マーレ・エ・モンティ」(料理提供 オステリア・デッロ・スクード 東京都新宿区)

イタリア料理の象徴ともいえるパスタ。なかでも、ほどよいモチモチとシコシコの両方の歯ごたえがかなえられる手打ち生パスタを好きな方は多いだろう。その生パスタ、実はイタリア発祥ではなく、古代ギリシャから伝えられた。

紀元前8世紀ごろのお話。古代ギリシャはイタリア半島南部に多くの植民都市をつくった。製鉄所で有名なターラント、見ずには死ねないナポリ。こうした街一帯に古代ギリシャから生パスタの原型が伝えられた。それが古代ローマへと引きつがれ、現代の生パスタへとつながっている。

古代ギリシャで「ラガノン」と呼ばれた生パスタの原型が、古代ローマでは「ラガヌム」となり、いまでも南イタリアで「ラガネ」や「ラガネッレ」として残っている。水を加えて練った硬質小麦(セモリナ)粉を2ミリほどの厚さに伸ばし、幅1.5~2センチ、長さ4センチ以上に切ったパスタを、古代ローマ時代の人々は揚げたり焼いたりして、スープに入れていた。

古代ギリシャから伝わった生パスタの面影を残す「ラガネ・エ・チェーチ」(料理提供 オステリア・デッロ・スクード)

このラガネというパスタと組み合わせるのは、こちらも古代ローマ時代からあるヒヨコ豆。「ラガネ・エ・チェーチ(ラガネとヒヨコ豆)」というメニューで、いまでも南イタリアで食べられる。

ちなみに、ラガネを幅広に切って、具をはさみ重ねたものが、のちに「ラザーニャ」になった。

こうして生パスタが南イタリアへ伝えられ、イタリアの各地方でさまざまな手打ち生パスタが生まれたとされる。地方によって、その地でとれる硬質小麦粉、軟質小麦粉、ソバ粉、栗粉などを使い、その粉に応じた生パスタがつくられるようになったのだ。

小池教之シェフの共著書『イタリア「地パスタ」完全レシピ』(2019年、世界文化社刊)

それでは、北イタリアから南イタリアまで、どのような生パスタがあるのか、見ていくことにしよう。

『プロのためのパスタ事典』や『イタリア「地パスタ」完全レシピ』の共著者のひとりである「オステリア・デッロ・スクード」(東京・新宿)の小池教之オーナーシェフは、イタリア20州の郷土料理を紹介するメニューを数ヵ月ごとに店で出す。なかでも小池シェフの繊細な手が打つ各州の生パスタは、作品ともいえるほどだ。