デザートはホテル内のパティスリーショップでお試しも

メインは「スプリングラムのアッロースト(グリル)」に、バラの花に見立てた新ジャガイモ、アブルッツォ産の黒オリーブなどを添えた。イタリアの中部から南部は、牛肉よりも豚肉や羊肉をよく食べる食文化が残っている。そして、春といえば、復活祭に食べるラム肉。そうした食文化を反映したメニューである。
最後のデザートは、パロッツォというアーモンドとチョコレートのケーキ。イタリアの伝統菓子は数百年の歴史を持つものも多いが、この菓子は100年ほど前にアブルッツォの有名菓子店がつくったとされる。本来は冷ましてから食べるが、この日は温かいままで出すことによって、近くに添えたバニラのジェラートがオレンジのソースに溶け出して、ソースに別の味わいを出すよう考えられていた。
実は、アマン東京の地下2階には、アマングループ初のペストリーショップ「ラ・パティスリー by アマン東京」がある。「アルヴァ」と「ラ・パティスリー」を含めたホテル全体のペストリーをつくるのは、ホテルのペストリー職人たちだ。ショップの商品はプチガトーなら500円から、パンなら300円からとなっている。アマン東京の菓子やペストリーのレベルを知りたい方は、まずここで買って試してみるのもいいだろう。

新型コロナウイルス禍以前、アマン東京は約8割を海外からの顧客が占めていた。世界中の顧客が訪れる有名リゾートホテルだからこそ、誰にでも知られ、誰でも食べられるイタリアンのメニューも置いている。「トマトとモッツァレッラ」「カラスミのスパゲッティ」などがそうだ。平木料理長が若いころのイタリアでの修業先は、家族的なトラットリア(庶民的な料理店)も多かった。「だから、ホテルといえども、温かく親しみやすい雰囲気を出したいんです。ホテルだから、ではなく、ホテルだけど、と言われる料理とサービスを提供したい」(平木料理長)
世界に名だたる「東京」というグルメ都市の、有名ブランドリゾートホテルだからこその挑戦と試行錯誤が続く。
イタリア食文化文筆・翻訳家。東京外国語大学イタリア語学科卒。イタリアの新聞社『ラ・レプブリカ』極東支局長助手をへて、文筆・翻訳へ。著書に『イタリア薬膳ごはん』(共著)『「イタリア郷土料理」美味紀行』、訳書に『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』(共訳)『スローフード・バイブル』