日本の和食材でイタリアの郷土料理を表現

次の前菜は「ホウボウと桜海老のブロデット」。イタリア半島の東側、アドリア海に面した町で食べられる魚介のスープがブロデットだ。黄色い泡はサフランで、イタリアのサフラン料理といえばコメ料理「ミラノ風リゾット」を思い浮かべる方が多いだろう。アブルッツォはそのサフランの産地の1つなので、ブロデットにも使う。まるで魚介のエキスのように濃厚なブロデットに、サフラン入りブロード(だし)の泡が色も風味も華やかさを添える。
3つ目の前菜は「アスパラガスと有精卵、ペコリーノ」。アブルッツォには、「カーチョ・エ・ウオーヴァ(チーズと卵)」というペコリーノ(羊のチーズ)と溶き卵を使った郷土料理がある。アブルッツォは牛乳製のチーズよりも羊乳製のチーズが主流だ。その郷土料理からイメージした一品で、平木料理長が勤務していた北イタリアではアスパラガスをよく使い、ゆで卵や半熟卵をソース代わりにすることから、これらの食材を組み合わせた。

パスタは「北海道産オーガニック全粒粉のスパゲッティ アッラ・キタッラ 蝦夷鹿のラグーとアイヌネギ」。「実は、北イタリアの山のほうにも、春に行者ニンニク(アイヌネギ)に似た食材が出てきます。日本の食材をまずイタリアの食材なら何だろうと置き換えて考え、イタリアの郷土料理のベースから外れないように組み立てる。自分にできるやり方はこれしかないし、それが新しい挑戦になると思っています」と平木料理長はいう。
「アルヴァ」のふだんのメニューではタリアテッレという平打ち麺で出されているが、この日はアブルッツォの伝統手打ちパスタ、キタッラで出された。イタリア語でギターという意味のキタッラは、木枠にギターの弦のように張られた細い針金にパスタ生地を押しつけてつくる。ロングパスタの断面は、スパゲティなら円形、リングイネなら楕円形だが、キタッラは四角形という特徴があり、ラグー(ミートソース)などに合わせやすい。
