車内での言葉遣いにご注意

今は無言がマナーだから、あくまでもいずれ新型コロナウイルス禍が収まってからの話になるが、タクシーでのおしゃべりは油断禁物だ。車内での対話は結構、人柄が表れやすい。密室であるのに加え、後部座席の乗客同士は距離感が近いから、自然とくだけた物言いになりやすい。

・ポイント5 個人的な話題に踏み込まない

運転手さんという他人は同乗しているものの、「耳をそばだてない」という職業倫理を信じて、あけすけな話を始めるご仁が珍しくない。「いやー、この間、大変でさあ」といった具合に、こちらが望んでもいないぶっちゃけトークを語り出す人たちがいる。

勝手な自己開示を止めだてする立場にはなくても、密室・近密の「2密」状況下でくだらない己語りを聞かされるのは、時に迷惑ですらある。聞き手が部下や後輩の場合、こうした振る舞いは上司・先輩の「しゃべり暴力」と映りかねない。

せめて互いに興味を持てそうな話題を選ぶか、聞き手側に質問して言葉を引き出すようなバランス感を示したい。アニメ「ドラえもん」でジャイアンがみんなをひどい歌で困らせる「ジャイアンリサイタル」を、狭いタクシー車内で繰り広げられたのではかなわない。

聞き手の懐に手を突っ込むような、ぶしつけな質問もタクシー空間を不快にさせる。密室が気を緩ませるのか、「最近、奥さんとはどうなの?」など、プライバシーに踏み込んでくる礼儀知らずは嫌われるきっかけを提供しているようなものだ。チャンスとばかりに、秘密を聞き出そうとたくらむ者もいる。個人情報を第三者(運転手さん)に聞かれるのを覚悟でべらべらしゃべりたがる人はそう多くないはずだ。あたりさわりのない話題を選ぶ気遣いを身につけておこう。

・ポイント6 だらしない姿勢は避ける

乗っている間の姿勢にも、同乗者の視線が注がれている。足を前方へ投げ出し、ぐでっとシートにもたれかかっている姿は、緊張感が欠けていて、ルーズな印象を与えやすい。「あー、くたびれた」「次はギンザか、めんどくせぇなあ」などといったぼやきは同乗者をげんなりさせがち。常に気を張るには及ばないが、タクシー車内は距離が近いだけに、ネガティブな印象も強く伝わりやすい点を頭に入れておきたい。

・ポイント7 横柄な態度は慎む

上下関係を無用に誇示するような態度は控えたほうが賢明だ。「ちょっとタクシー、つかまえてこいよ」と横柄に命じたり、最初に乗り込む際に「もっと奥に詰めろよ」と求めたりすると、指示を受けた側を不快にさせやすい。支払いの際に「誰か、払っといて」と、先に降りるのも、思い上がった印象を与える。誰が支払うのかを探り合う状況を避けて、車が止まる前に「私が払うから、先に降りて」と言えれば、株が上がるだろう。

黙乗の間は難しいが、かつては運転手さんとの間でこなれた会話を聞かせてくれる上司・先輩たちがいた。天気の話から入って、タクシー業を通じて体感する街角景気、世相の移り変わり、直近の話題などを自在に織り込んでいく。短い時間ながらも聞きごたえの豊かな、漫談調の対話を即興で組み立てる、乗り慣れた乗客のトーク技には大人のたたずまいがあった。年の離れた運転手さんとも堂々とわたりあう先輩の姿は頼もしくも映った。そのやりとりを脇で聞くことによって、初対面の相手との会話をスムーズに切り出す知恵をもらえた。

実際、経験の豊富な運転手さんたちは独自の情報感度を備えていて、乗客の側はトークを通じて何かと教わることが多い。出張先の今を知るうえでも貴重な情報源だった。タクシーに乗る意味の一つに、そうした対話があったのだが、今は昔。車内トークの文化が薄れて、「黙乗」が当たり前になってしまう前に、以前の「タクシー劇場」が戻ってきてほしいと願うばかりだ。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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