「力と不死の象徴」コンドル 絶滅危機を乗り越えるか
世界最大の猛禽(もうきん)、コンドルが減っている。地元アルゼンチンではこの鳥を復活させるべく、保護活動が続けられている。
翼を広げたときの長さは3メートル、寿命50年の巨大な鳥コンドルは、かつては南米アンデスに広く分布し、先住民から力と不死の象徴としてあがめられてきた。現在、少なくとも4カ国で国鳥に指定されている。
残りは6700羽
しかしそのコンドルですら、人間活動の影響から逃れることはできない。飛行中に風車や電線に衝突したり、銃で撃たれた動物の死骸を食べて有害な鉛の弾丸をのみ込んでしまったり、害獣を駆除するために置かれた毒を誤って食べてしまったりすることがある。コンドルを狙った狩猟や密猟も、多くはないが、完全になくなったわけではない。
コンドルは、野生には成鳥が6700羽しか残っていないとされ、国際自然保護連合(IUCN)は危急種(vulnerable)に指定している。そのため、科学者、保護活動家、先住民コミュニティーは、個体数を回復させようと保護に取り組んでいる。
なかでも、アルゼンチンで30年にわたりコンドルの保護活動をけん引してきたのが「コンドル保護プログラム(PCCA)」だ。この間、少なくとも全個体数の5%以上に当たる370羽のコンドルを保護し、80個の卵を孵化(ふか)させ、野生に戻してきた。そのかいあって、最近はパタゴニア地方南部の大西洋沿岸で、再びコンドルの姿が見られるようになった。
コンドルの個体数の減少とその緩やかな回復は、この地域に暮らす多くの人々にとって個人的、かつ感情的な問題でもある。「コンドルはアンデスの魂なのです」と、PCCA代表のルイス・ヤコメ氏は言う。子どもの頃、空を舞う巨大な鳥についての物語を祖父母から聞かされたという人は多い。
このようにコンドルと深いつながりを持つアンデスの人々は、PCCAが放鳥を行う際には必ず、先住民の霊的指導者による特別な儀式を執り行って、コンドルの帰還を祝い、祈りをささげる。コンドルを元のすみかに再導入するために欠かすことのできない重要な儀式だと、ヤコメ氏は言う。「私たちの活動は、コンドルの両翼のようなものです。片方の翼は科学的な知識、もう片方の翼は文化を表しています。コンドルは、南米のすべての人々にとって神聖な鳥なのです」
GPSでコンドルを追跡
写真家でナショナル ジオグラフィック・エクスプローラーのソフィア・ロペス・マニャン氏は、コンドルが先住民の社会において果たしている特別な役割を理解するため、過去6年間PCCAとともに活動してきた。何よりも運命を感じたと、マニャン氏は言う。「コンドルが私を選んでくれたので、この活動に携わるようになりました」
卵の孵化、保護、放鳥に加え、PCCAの科学者たちは、野生に放したコンドルにGPS(全地球測位システム)機能をもつ首輪を付けて追跡している。こうして得られたデータから重要な生息地を特定し、政策決定者にどの地域を保護対象とすべきかを提案することができる。これまでコンドルが放鳥された地域のなかには、風力発電や水力発電施設の開発候補地に挙がっている場所もある。
「私たちは今、さまざまな対立の中で生きています。自然の秩序に立ち戻らなければなりません」と、ヤコメ氏は言う。
(文 REBECCA DZOMBAK、写真 SOFIA LOPEZ MAÑAN、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年9月15日付]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。