自治体にとっても、ふるさと納税は大きな意味を持つ。予算の枠に縛られて実現できなかった大胆な施策をする資金を得られるという点だ。北海道上士幌町は寄付金を原資に国内で初めて認定こども園を10年無料化した。さらに子どもが高校を卒業するまでの医療費も無料、中学生以下の子ども1人につき住宅の新築補助金を100万円支給するといった子育て支援策を次々打ち出している。「返礼品がもらえてお得」な制度というだけでなく、地域社会をより豊かに、より住みやすく変えていくきっかけにもなり得る。
旅行中に納税、お土産代に利用
自治体の魅力を若者を含めたより幅広い年代層に知ってもらおうと、独自の取り組みを始めている自治体もある。静岡県焼津市は22年8月、メタバース上の世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット 2022 Summer」に出展し、焼津市の観光や特産品を紹介する中でふるさと納税のPRを行った。ふるさと納税のデジタルポスターに触れると、自動的に同市の専用サイトに移り、リアルに寄付ができる仕組みだ。16日間の期間中にブースを訪れた人は14万人に上り、「20〜30代の納税者やメタバースを活用する感度の高いビジネスマン層にアピールできたという手ごたえを感じている」(同市ふるさと納税課)。同市は12月3日から18日まで開催される「バーチャルマーケット 2022 Winter」にも引き続き参加する予定だ。

寄付というハードルを下げる動きもある。ギフティが展開する「旅先納税」は、旅行中や出発前にスマートフォンで寄付をして電子商品券をもらえば、現地の宿泊施設や飲食店、レジャー施設、土産店などの支払いができる。22年11月末時点で利用できるのは北海道内を中心に20自治体強。JALとの提携で全国的な普及を目指している。神奈川県湯河原市、栃木県那須町、静岡県御殿場市などの観光地には、現金かクレジットカードで納税すると、その場で返礼品を持ち帰れる「IoTふるさと納税自販機」が設置されている。自販機の運営はグローキーアップ(神奈川県藤沢市)が担う。
返礼品や寄付の方法の多様化が進んだことにより、個々の納税者が自分のライフスタイルに合わせ、好きな時に好きなだけ制度を活用できる状況になってきた。これまで利用していなかった人にとっては、ふるさと納税デビューの好機と言えそうだ。
(ライター 森田聡子)