燃え尽きを防ぐため、精神的なサポートを打ち出す企業も出てきている。ソフトウエア会社のハブスポットが1週間の全社的な休日の設定や従業員向けのストレス軽減ワークショップなどを含むバーンアウト予防活動を始めたほか、会議や就業時間を減らした企業もあるそうだ。
退職という決断にまでは至らないにしても、多くの人にとってパンデミックは自分の仕事や人生について考え直す機会になっただろう。今まで出張したり会社に出たりしなければできないと思い込んでいた仕事が、実は自宅でもできた。家で子供の様子を見ながら働くことがどれほど難しいか、あるいはどれほどやりがいにつながるかを実感した。当たり前だと思い込んでいた働き方が当たり前でないと気づいたいま、自分はこれからどう働き、どんな人生を送るべきなのか――。ワシントン・ポスト紙はこうした働き手の心の動きを「great reassessment of work(仕事の大再評価)」と名付けていた。
コロナ禍で増えた起業
「大再評価」の一つの帰結といえそうなのが、新ビジネス立ち上げの増加だ。商務省の統計によると、パンデミック前は毎月30万件程度だった新規事業の届け出数は20年7月に55万件に急増。12月にはいったん下がったが、今年1月以降ずっと40万件超が続いている。
コロナの収束も見通せない不透明な時代、なぜあえて起業するのか。予約制の焼き菓子店を始めたニューヨーク在住の日系アメリカ人、マイさん(仮名、33歳)に聞いた。

マイさんは看護師として働いていたが、コロナ関連ではないクリニックだった勤め先はパンデミックのさなかに一時閉鎖された。「安定した仕事だと思っていたのに……」。突然働けなくなったのは大きなショックで、どんな仕事にも保障はないということに気づかされた。それ以来、生活する手段の選択肢を持つことの大切さや、より満足のいく人生を送るにはどうすればよいかなどについて考えるようになったという。その結果が、大好きなお菓子作りの事業を始めることだった。
現在は看護師の職務にも戻っており、2つの仕事を掛け持ちしている。忙しいが、菓子を焼くのは楽しく、癒やしにもなっているそうだ。
「パンデミックを通じて、社会やみんながどれほど高い回復力と創造性を持っているか実感し、大きな刺激を受けました。結局、人生は試行錯誤の連続。もし失敗してもまた立ち上がり、方向転換してやり直す強さが自分にはある。こう教えてくれたと感じています」。マイさんがこの2年弱で得た教訓だ。
何十年か後に「あの会社もこのサービスも、パンデミックのときに始まったんだね」と振り返れるときがくればいいと心から思う。
(ライター 高橋恵里)