DeNA流は通用する? 企業文化の違うバスケクラブへ川崎ブレイブサンダースの『ファンをつくる力』(後編)

日経エンタテインメント!

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YouTubeチャンネル登録者数と、TikTokのフォロワー数がともに10万人超え。プロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」は、野球やサッカーを含む日本のプロスポーツクラブのなかで、SNS(交流サイト)にてトップクラスの成功を収めている。

SNSを含むデジタル戦略に積極的に取り組むようになったのは、2017年12月、それまでの経営母体であった東芝からDeNAが事業承継することを発表して以降のこと。その中心的な役割を担ったのは、DeNAにてスマホ(スマートフォン)ゲームのプロデューサーを務めたのちに、川崎ブレイブサンダースのリブランディング事業に参画したマーケティング部長の藤掛直人氏だ。

前編ではスポーツビジネスの世界に飛び込むまでの経緯を聞いたが、後編では、スマホゲームの世界の常識が通じない未知の世界で、いかに新しい仲間たちとリブランディングに取り組み、ファンをつくることに成功したのかを探る。

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川崎ブレイブサンダース 事業戦略マーケティング部 部長 藤掛直人氏(写真 中村嘉昭)

バックボーンが異なる人が混在する職場の「ヤバい人」

スポーツビジネスの世界に飛び込んだ藤掛氏は、まず大きな違和感を覚えたという。それは「データが少ない」ということだった。スマホゲームのプロデューサーを務めていた際は、ユーザーのデータの分析から方針を決定し、効果測定をしながら施策の精度を高めていくアプローチが日常だったからだ。そのため、川崎ブレイブサンダースの試合を見に来てくれるファンを増やすためには、データ活用が不可欠と考えていた。しかし、そのデータがなかったのだ。

「最初に現状を把握したいと考えたのですが、とにかくデータが少ないんです。例えば、チケット販売の日次データや過去施策の効果測定結果、来場数の多い顧客属性など、戦略を検討する上で確認したいデータはどこにもありませんでした。

でもそれは当たり前で、デジタルの世界とリアルビジネスではデータ取得の難易度や必要なコストが全く異なります。デジタルサービスと同じようにPDCA(サイクル)を回すためには、超えなければならない壁が少なくなかったのです」

そこで、現状を把握できる基本データを得るため、それまでは複数のプレイガイドで行っていたチケット販売を一本化することに。そしてデータを活用したPDCAの文化を、川崎ブレイブサンダースに浸透させようとした。というのも、DeNAが事業を承継した当初のメンバーは、藤掛氏のようにDeNAから異動した人だけでなく、同じくDeNAが手掛けるプロ野球チーム「横浜DeNAベイスターズ」からの参加者、さらに東芝時代にチームの社員として雇用された人、あるいは新たに入社したメンバーなど、様々な経歴を持つ人が混在していたからだ。

「他のメンバーからすると、私は結構“ヤバい人”だったと思います(笑)。DeNAって、正しいと思ったことは誰にでも直言する文化なんです。事業のクオリティーを高めることができ、スピード感も損なわれにくいという利点がある一方で、言われる側もその前提に立っていないと面食らいますよね。

しかも、それをスポーツビジネス経験のない私が、ゼロベースでガンガン言ってくる。スポーツビジネスに長く身を置かれていた方からすると、非常識な提案も含まれていたと思います。川崎ブレイブサンダースのスタッフはとても良い方が多くて、ケンカになるようなことはなかったんですが、加入した当初の私は相当変わった人だと思われていたそうです。自分としては、かなり抑えていたつもりだったんですけど(笑)」

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重視したのは「リスペクト」と「ロジック」