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前腕を失った夫 最新研究で妻と「触れる」を実感

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ナショナルジオグラフィック日本版

手を握ったり、抱き合ったりすることは私たちの健康にどのような効果があるのか? 誰かと触れ合うことによって、心が安らいだり、幸せな気分になったりするのはなぜだろう? そして、事故や病気で失った触覚を取り戻すことはできるのか。"触れる"の謎に挑戦する研究の最前線を追った。

◇   ◇   ◇

左の前腕を失ってから6年後の2018年9月、米国メリーランド州で開催された研究者向けのシンポジウムで、ブランドン・プレストウッドは半ば笑い、半ば泣いているような顔つきで妻を見つめていた。夫妻の周りに集まった数人の1人がこの場面を記録しておこうとスマートフォンを構えた。ひげ面の男性が、長髪のきれいな女性と向き合っている。男性は肘先に白い義手を装着している。テーブルには電子機器が置かれ、その導線は彼のシャツの下に潜り込んで、肩の辺りにつながっている。彼の生身の体が電子機器に接続されている状態だ。

プレストウッドは、世界各地の神経科学者、医師、心理学者、医用生体工学者らが連携して進めている野心的な実験に参加している。米国オハイオ州クリーブランドにあるケース・ウエスタン・リザーブ大学の外科医らが、彼の左腕の切断面にメスを入れ、断ち切られた神経と筋肉に小さな電極を取り付けたのだ。さらに、そこから細い導線を50本近く上腕の皮下に通し、肩の付近で外に出した。この処置後、プレストウッドは上腕に貼ってあるパッチをはがすたびに、皮膚から突き出した多数の導線を見ることになった。

義手による"触れる"体験

ここ何カ月かはクリーブランドに定期的に通い、試験段階にある次世代型の義手を装着して、さまざまなテストを受けていた。この義手はモーターを内蔵し、指先にセンサーが付いている。こうした義手は機能回復を促す装置として大いに期待されているが、ケース・ウエスタン・リザーブ大学の研究チームが最も関心を寄せていたのは、単なる操作性の向上ではない。人が何かに"触れる"体験だ。そのために研究者たちは、プレストウッドの腕の導線をコンピューターに接続し、その反応を注意深く観察していた。

触れるという体験には、皮膚と神経と脳が関わっている。それらが相互に連携する仕組みは驚くほど入り組んでいて、それを理解し、測定し、ごく自然な形で再現する試みには、数々の困難が伴う。

ケース・ウエスタン・リザーブ大学の感覚復元研究室で行われた実験では、期待の持てる進展があった。例えば、義手で発泡スチロールのブロックを握る実験。プレストウッドはブロックの手応えを感じた。かすかだが、まるで失われた手の指から伝わってくるようだった。

妻のエイミーはそれまで研究室での実験に立ち会うことができず、冒頭で述べた9月のシンポジウムが初めての機会だった。新型の義手を装着した夫と、手を伸ばせばさわれる距離で向き合っている。

このときプレストウッドはスマートフォンでこの場面を録画していた。その動画を見ると、広い研究室で、2人の大人が不安げに相手の表情をうかがいながら向き合っている。まるで、初めてダンスを踊ろうとしている思春期の少年と少女のようだ。プレストウッドは足元に目を落とし、それからおもむろに義手の指に視線を移して、にっこり笑うと、右手でエイミーに義手を指さした。さあ、さわってごらん。

触覚は「人類最古の言語」

触覚に関する論文は続々と発表され、そこには新たな知見や推論、未来に向けた素晴らしい提案が記されている。だが、ここで伝えたいのはプレストウッドが撮影したわずか4秒ほどの出来事だ。

エイミーが義手の左手をそっと握ると、プレストウッドは、はじかれたように顔を上げた。目を大きく見開き、口をぽかんと開けて、まっすぐ前を見つめるばかり。エイミーはそんな彼を見守っていたが、当のプレストウッドは虚空を凝視したままだった。

「感じたんですよ」。後日、プレストウッドはそう話してくれた。「ちゃんと反応があり、妻に触れている実感があった。不覚にも泣いてしまいました。妻も泣いていたんじゃないかな」

そう、エイミーは泣いていた。プレストウッドが動画を見せてくれた日は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの真っただ中。世界中の人々が互いへの接し方、触れ合い方を探っているような日々だった。

大半の人は健康を保つために、他者の肉体的な存在を必要としている。他者との触れ合いを通してもたらされる安らぎが、健康の維持に欠かせないのだ。私たちの多くはそれを本能的に知っているようだが、神経学者と心理学者は心拍数やホルモンの濃度といった生物学的な指標を用いて、この通説を説明してきた。

その一例が以下の文章だ。学術論文のようにも思えるが、出典は後ほど説明する。

触れることは、人間の基本的な欲求である社会的交流の基本的な側面である......ストレスが多い体験の最中に人と触れ合うと、さわられた人物は心が安らぎ......ストレスホルモンの濃度が低下し......視床下部で生産される神経ペプチドの一種、オキシトシンの分泌が促されることがわかっている......オキシトシン濃度の上昇は、信頼の高まり、協調的な行動、見知らぬ人との共有、他者の感情を読み取る能力の向上、より建設的な争いの解決に関連すると考えられている。

これは、独房監禁の違憲性を訴えるために、米国の連邦裁判所に提出された意見書の一部だ。弁護団がカリフォルニア州の服役者たちの代理人として訴訟を起こし、服役者を何年も独房に隔離する行為は、残酷で異常な刑罰を禁じた合衆国憲法に違反すると主張した。この意見書を執筆したのは、15年以上にわたって触覚の研究に携わってきた米カリフォルニア大学バークレー校の心理学教授、ダッカー・ケルトナーである。「触覚は社会的なつながりをつくる人類最古の言語、ひょっとすると最も基本的な言語です」とケルトナーは話す。

それはつまり、ヒトが声による言語を獲得する以前に「触覚によるコミュニケーション」を行っていた、ということだ。子どもの発達過程でも、胎児が最初に獲得する感覚は触覚であることがわかっている。触覚は出生時と生後数カ月の間、新生児にとって最も重要な感覚であり、最も発達した感覚なのだ。

(文 シンシア・ゴーニー、写真 リン・ジョンソン、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版 2022年6月号の記事を再構成]

ダイジェストで紹介した記事は、ナショナル ジオグラフィック日本版2022年6月号の特集「触れ合いのパワー」です。このほか、気候変動と破壊的な漁法で深刻な被害を受けているフィリピンのサンゴ礁、絶滅の瀬戸際にあったスペインオオヤマネコの復活、ガンジス川のプラスチック汚染の度合いと汚染源の解明などを取り上げています。 Twitter/Instagram @natgeomagjp
  • 著者 : ナショナル ジオグラフィック
  • 出版 : 日経ナショナル ジオグラフィック
  • 価格 : 1,210円(税込み)

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