文具の技術で作ったまな板 木製と樹脂製の弱点を解消

日経クロストレンド

「cutting mat(カッティングマット)」は、カッターマットの製造技術から生まれたまな板。刃当たりが良く、薄く丈夫で、折り畳める。アッシュコンセプトのオリジナルブランド「h tag(アッシュタグ)」から発売
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アッシュコンセプト(東京・台東)のオリジナルブランド「h tag(アッシュタグ)」の人気商品が、カッターマットの製造技術から生まれたまな板「cutting mat(カッティングマット)」だ。刃当たりが良く、折り畳めるなどの利点から、毎月1000枚以上を売り上げる。

アッシュコンセプトのオリジナルブランド「h tag(アッシュタグ)」の人気商品が、カッターマットの製造技術から生まれたまな板「cutting mat(カッティングマット)」だ。2020年6月にSサイズ(300×400ミリメートル)とLサイズ(400×400ミリメートル)を発売し、21年2月にSSサイズ(150×300ミリメートル)を発売した。

SSサイズを発売した理由は、一人暮らしの人などから「もっと小さなサイズが欲しい」という要望が届いたから。折り畳めるので2サイズで使用でき、食材で面を使い分けるのも可能。わずか3ミリメートルという薄さながら、刃当たりが良く反りにくい。収納も場所を取らず、乾かすときなどに自立するのも便利だ。毎月1000枚以上を売り上げているという(全サイズ合計、SSサイズ発売の21年2月~22年7月)。

SSからLサイズまで3サイズ。価格はSSサイズが2200円(税込み、以下同)で、Sサイズが3850円、Lサイズが4400円。折れば自立する点も特徴だ

商品がブレークした背景には、新型コロナウイルス禍で家の中で過ごす時間が増えたなか、Instagramを使った販促策が成功したことも関係している。21年4~9月は月間2000枚弱から3000枚弱の売り上げが続いていたという。

30年間、作りたいと思い続けた

カッターマットは文具の一つで、紙などをカッターで切る際に下敷きとして使うマットのことだ。アッシュコンセプトの名児耶秀美代表取締役は、「カッターマットの技術でまな板を製造するというのは、約30年間温め続けたアイデアだった」と話す。

「ある仕事でカッターマットの製造現場を見学した際、『この技術を使ってまな板を作ったら面白いんじゃないか』と思いついた。カッターマットは芯材となる硬質素材の表面に、軟質素材を貼り合わせて製作する。『軟質─硬質─軟質』の3層構造にすることで、薄くても丈夫で反りにくく、何度刃を当ててもマット自体が切れにくいようにしている」(名児耶代表取締役)

早速、カッターマットの製造元にそのアイデアを伝えたのだが、当初は前向きの返事は得られなかった。まな板は食品衛生法の対象となる「器具」に該当するため、厳しい規格基準をクリアする必要があったからだ。「その工場でまな板を製造する場合、前日に工場の稼働をすべて止めて機械を洗浄しなければいけなかった。もし誤って文房具の素材がまな板に混入してしまったら、せっかく作った商品が全廃棄になるリスクもあった。リスクが大きすぎるということだったが、諦め切れず30年間ずっとラブコールを送り続けた」(名児耶代表取締役)

実際、カッターマットの技術で作るまな板には需要がありそうだった。それを裏付けしたのが、生活用品に関するアンケートだ。

「アンケートによると、木製まな板ユーザーには『カビが生える』『重い』『収納性が悪い』など、樹脂製まな板ユーザーには『板が反る』『刃当たりが悪い』『最適な大きさではない』などの困りごとがあった。そして驚くことに、6割以上の人が複数のまな板を使い分けていた」(アッシュコンセプトのデザイナー、藤田吏氏)。カッターマットの技術でまな板を作れば、木製と樹脂製、両方の困りごとを一気に解決できそうだと考えた。

アンケートの後、カッターマットのメーカーに「そろそろまな板を作ってみないか」と問い合わせをしたところ、「『機械洗浄のために工場の稼働が止まれば、数百万円の費用がかかるが、大丈夫か』と尋ねられた。『大丈夫だ』と即答し、試作へと進んだ」(名児耶代表取締役)。30年間の片思いが実った瞬間だった。

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