映画のモデルとなった女性兵士軍団 ダホメ王国を守る

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

19世紀のリトグラフに描かれた西アフリカのダホメ王国の女性兵士たち。17世紀後半から20世紀初頭にかけて、現在のベナンにあったダホメ王国は、女性兵士のみからなる勇猛な軍団によって守られていた

かつて西アフリカにあったダホメ王国に、勇猛果敢な女性兵士軍団が実在していた。2022年9月に米国で公開された新作映画『ザ・ウーマン・キング(原題)』の題材になっているほか、架空のアフリカの王国を舞台にした映画『ブラックパンサー』に登場する女性だけの親衛隊のモデルとしても知られている。

小川を渡るダホメ王国の女性兵士たち(COLLECTION PAUL ALMASY/ AKG-IMAGES)
ダホメ王国の女性兵士の軍服。映画で描かれる衣装とは大きく異なり、ダホメ王国の女性兵士たちはチュニックと膝丈のパンツで戦っていた(PICTURES FROM HISTORY/ AKG-IMAGES)

しかし、ダホメ王国の女性兵士をギリシャ神話に登場する女性だけの部族になぞらえて「アマゾン」と呼ぶのは、植民地主義的であるだけでなく、彼女たちを例外的な女性として見るものであるため好ましくないと、著書に『ウィメン・ウォリアーズ はじめて読む女戦記』がある歴史家のパメラ・トーラー氏は指摘する。

17世紀後半から20世紀初頭まで西アフリカに実在した女性だけの軍団については、「全貌を知ることが重要だ」とトーラー氏は言う。軍団の起源と彼女たちを生み出した社会について探ることで、女性兵士たちの実像とその遺産をより多面的にとらえられるようになる。

ダホメ王国の勃興

ダホメ王国は17世紀に現在のベナンで創建された。王国は高度に組織化された政府をもち、半神とみなされる王は国の経済、政治、社会を完全に掌握していた。また、王への忠誠心と国の発展への貢献度によって平民から選ばれる官僚の評議会が、王を支えていた。

奴隷商人で歴史家のアーチボルド・ダルゼルによる1793年の著作「ダホメ王国の歴史」に描かれた、ダホメ王国とその周辺地域の地図

海に面していることと、戦略的手腕に優れた指導者の存在は、ダホメ王国がほかの沿岸の王国を征服し、支配を広げるうえで大いに役立った。しかし、ダホメ王国の支配を決定づけた最大の要因は、大西洋奴隷貿易の始まりと拡大だった。ダホメ王国の支配者たちは、1720年代から英国が海上封鎖を行った1852年までの間に、近隣の部族や国から数十万人を奴隷として英国、フランス、ポルトガルなどに売ったと推定されている。

ダホメ王国は規律正しい軍隊と戦略的なリーダーシップで西アフリカを支配するようになったが、同時に、近隣諸国から数十万人を捕らえて奴隷商人に売り渡し、大西洋奴隷貿易に手を貸した(PICTURES FROM HISTORY/ AKG-IMAGES)

ダホメ王国が戦ったのは奴隷を手に入れるためだけではない。農業用の肥沃な土地を獲得し、パーム油の貿易を拡大するためでもあった。この2つの事業から徴収される税金と関税は、王国の軍備の増強に使われた。

しかし、絶え間なく続く戦いによって男性の数は激減し、やがて女性たちが王国を守護する役割を担うようになっていった。

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女性兵士はなぜ生まれたのか