DXは「一世一代の大変革」

日本企業のDX実現はなぜ難しいのか。それは多くの日本企業がこれまでシステム構築をIT部門だけで進めようとしてきたため、全社戦略として考えてこなかったこと。IT部門も外部のベンダーに任せ、自社のビジネス特性にあったものになっていなかったこと。それらは、自社でデジタル人材を育てタイミングよくスピード感をもって製品やサービスを市場に投入する米国など海外勢との違いを浮き彫りにします。

第4章ではその処方箋を詳述していますが、個別の手順や対策といった点以上に著者が最も強調したいのは、DXに対する全社員の意識を変え、スキルを高め、自社のプロセスを変える、それこそが企業文化の変革ということであるように思われます。

「中途半端なDX――すなわち市場プレッシャー対応、株価対策のためのDXでいいのであれば、別に企業文化にまで踏み込まずとも、システムと業務の問題点だけ見直せばいいわけです。そうではなく、“本物のDX”を成し遂げたいのであれば、立て付けの段階から、システムや業務の変革とあわせて、企業文化変革に着手しなければなりません」(193ページ)と説いています。

真のDXとは、それにより本当に財務的な成果が出て、企業価値が上がり、社員の気持ちが変わり、組織が新たな能力を身に着け、企業文化が変わり、自走化し、自律的に絶えず進化していく状態を意図して作りだすことです。これは、他人任せにして、一朝一夕になし遂げられるものではありません。経営者が先頭に立ち、組織全体を全力で引っ張っていかない限り実現できない、一世一代の大変革なのです。
(第4章 How? DXを成功させるために必要なこと 197ページ)

本書では、コンサルタントとして企業支援を行う際、顧客企業の経営者に数年後に会社はどうなっているかとたずねるようにしているといいます。経営者の多くが「大きな変化はない」との答えが返ってくるそうですが、「10年後、20年後は」と聞くと、「分からない」などと答えに窮する反応がみられるそうです。しかし、10年後となると、現在の経営陣は会社を去っています。だからこそ、会社の存亡を分けるその時に経営層に昇格する可能性がある「次世代リーダー」に期待を込めて、最終章で企業変革に向けて「立ち上がれ」とエールを送るのだと述べています。20~30代の「若手リーダー」もそのころ、次世代リーダーに成長していることになります。本書はDX推進の指南書であるだけでなく、組織や企業のあり方を同時に考えさせられる書といえそうです。

◆編集者のひとこと 日本経済新聞出版・栗野俊太郎

「なぜ社内業務にLINEが使えないのか?」

「なぜハンコをもらうためだけに出社しなければならないのか?」

「ウチの会社は、生き残ることができるのか?」

日々の業務の中で、このようなことを考えたことはありませんか。こういった問題意識は、本書のテーマ「企業文化変革」につながるきっかけになります。

本書は、マッキンゼー・デジタルが2020年9月に発表したリポート『デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ』がもとになっています。

書籍化にあたり、マッキンゼー・デジタルのメンバーと議論を重ね、Why(なぜDXなのか)、What(DXで何を目指すのか)、How(何をすべきなのか)という視点で執筆を始めていただきました。最終的にはYou(あなた自身が何をすべきか)という観点も盛り込まれ、さらに充実した内容になりました。

本書冒頭でも述べられていますが、10年後、現経営陣は会社にはいません。10年後の会社の存亡のカギを握り、企業文化変革に挑む次世代のリーダー、そしてリーダーを目指す方に読んでいただきたい一冊です。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。

マッキンゼーが解き明かす 生き残るためのDX

著者 :黒川 通彦 平山 智晴 松本 拓也 片山 博順
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 2,200 円(税込み)


ビジネス書などの書評を紹介
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら