ダメ会社の再生をストーリーで体感 経営改革の要諦は八重洲ブックセンター本店

1階の新刊ビジネス書の棚に面陳列で展示する(八重洲ブックセンター本店)

ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している八重洲ブックセンター本店だ。緊急事態宣言の解除と年末の多客期を迎えたことで土日の人出はかなり戻ってきた。ただ平日の来客はまだ戻りが鈍く、ビジネス書の売り上げはそれほども回復していない。そんな中、書店員が注目するのは、大手企業からダメ子会社のトップに就任し、その変革を主導した経営者による企業再生物語だった。

キヤノン電子の変革、三人称で語る

その本は酒巻久『左遷社長の逆襲』(朝日新聞出版)。著者の酒巻氏はキヤノンの子会社、キヤノン電子の会長。1999年、キヤノン常務から同社社長に転じ、実質的には赤字経営だった同社を売上高経常利益率1%台から10%超の企業へと成長させた。さらに上げた利益を宇宙事業へと投じ、将来の成長に向けた中核事業へと育てようとしている。2021年3月に社長を退任、会長に就任した。社長就任に始まる20年超の軌跡を自らたどり直したのが本書だ。

本書がユニークなのは、三人称のストーリー仕立てになっていることだろう。まえがきの中で著者はいう。「ものづくりの醍醐味(だいごみ)は、多くの人との協業にある。私が偉そうに、一人、旗を振っても、それを信じて、ともに進む社員がいなければ、何も成すことはできない」。そのことを伝えるためにもあえて三人称としたと語る。著者本人も酒巻久として登場する。

東京郊外を走る西武線の特急列車の車窓を眺めながら、これから赴任するキヤノン電子の本社所在地、秩父の町の春に思いをはせるところから始まる本書は、さながら小説かノンフィクションのようだ。役員・幹部社員約20人との初顔合わせの席で「キヤノン電子を再建したい。そのための経営方針を述べたいと思います」。こう切り出した酒巻は改革のロードマップを5つの経営課題として示し、まずコスト削減、経営資源のムダ削減から手を付ける。

町を歩いて社員たちの評判を聞くと、昼間からジムに通うような経営層の実態が明らかになってくる。1年かけて管理職一人ひとりを綿密に観察したうえで、人事を断行。「ダメな幹部のせいで若手が成長できなくなる」状況の解消に努め、「冷遇されていた生え抜きの中堅、幹部」の再生を図った。

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