
東京都が首都直下地震の被害想定を10年ぶりに改定します。この間、耐震化が進んで建物は壊れにくくなり街の安全度は高まりました。一方で都心の人口が増え、高齢化や単身世帯化も進みました。震災関連死が増えないよう避難生活も重視して見直します。
10月7日、東京や埼玉が震度5強の強い揺れに見舞われました。建物などへの被害はあまりありませんでしたが、鉄道が点検などのため止まり、帰宅や翌日の出社に影響が出ました。
東京23区で震度5強を観測したのは東日本大震災以来です。震源は千葉県北西部で、首都直下地震の一つと考えられている東京湾北部地震に近い場所でした。

現在の都の被害想定は主にこの東京湾北部地震が対象です。23区の7割が震度6強、一部は震度7が襲います。死者は9700人で、このうち揺れによる死者が5600人、火災が4100人です。避難生活者はピーク時で339万人、帰宅困難者も517万人に上ります。
新たな被害想定は港区や品川区の直下を震源とする都心南部直下地震を想定します。都心で最も大きな被害が予想される地震がこれに変わったためです。

この10年で住宅の耐震化率は81%から92%に向上し、防災対策は一定の進展がみられます。建物が倒れなければ火災の発生や拡大を抑えられ、道路をふさいで救助や復旧の妨げになることも防げます。
一方、都心5区の人口はタワーマンションの増加で20万人近く増えました。郊外の戸建てから都心のマンションに移り住む独り暮らしの高齢者も目立ちます。
耐震マンションが倒れることはまずありません。ただ停電でエレベーターが使えず、断水も長引くと避難生活は厳しくなります。避難所のスペースは限界があり、家が壊れていない人は自宅での避難が前提です。
高齢化が進むにつれ、地震の揺れや火災で亡くなるより、避難生活に耐えられずに亡くなる震災関連死が増えています。在宅避難の人たちをどう支えるか、行政と地域の人たちで考える必要があります。
防災対策の専門家で、都の被害想定づくりに携わる中林一樹・東京都立大学名誉教授は「建物の全壊や焼失は減り、安全になったとはいえる。ただ、安全になったからといって皆が備えをしなければ、社会経済活動の混乱は大きくなる」と指摘します。
被害想定は死者数や倒壊建物数など直接的な被害に関心が集まりがちですが、その数字から自分の生活にどのような影響があるか、ふだんから想定して備えることが大切です。
今回は住民が1週間分の備蓄をしていれば、被害や混乱がどれだけ減るか、対策の効果も示すことにしています。中林さんは「一人一人の備えが大事だと気づいてもらえる被害想定にしたい」と話しています。