両親の心配をよそに、英語生活には半年程度で慣れた。ハーバード大に比べ、MITにはインドなどアジア系の学生が多い。約40人の学生が暮らす寮生活も快適だった。「BMO(ビール・数学オリンピック)」という催しを開き、寮生たちと楽しんだ。互いにビールと数学に関する質問を出し合い、点数化してビールを飲み合うという理系の学生らしいイベントだ。

当初、MITでは好きな生物学や生物工学を学ぼうと思ったが、学生の4人に1人はコンピューターサイエンス(CS)など情報系の学問を専攻する。電子工学部に進み、信号処理系の研究に没頭。3~4年時からメディアラボにも出入りするようになった。大学院時代には最優秀論文賞を受賞するなど研究者として前途洋々だった。一方で「自分の研究は10年後のテクノロジー。実社会にいつ還元できるのか」と違和感を覚えるようになった。

MITの後輩がユニコーンに

オンライン教育サービスを起業した灘高コンビの前田さん(右)と趙さん

MITの1つ下の後輩のアレックス・ワンさんは大学を中退し、19歳でAIベンチャー企業のスケールAIを起業した。わずか数年で企業評価額は日本円で7000億円を突破。新たなユニコーン(企業評価額10億ドル超の未上場企業)の誕生と話題になった。「こんなすごい天才が身近にいたのか」とあぜんとした。

そんな時、「AIで世界を変えよう」というソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義さんの話を聞いて心がときめいた。実際にAI分野で巨額投資を次々に実施し、社会にインパクトを与えている。若い研究者ら異才人材を支援する「孫正義育英財団」のメンバーに応募して選ばれた。前田さんは「米国にいると、日本の教育の問題も見えてくる。やはり社会を変えるにはまず教育改革。孫さんのような人材をもっと輩出しないといけない。私のミッションは『リトル孫正義』育成のプラットホームをつくることだ」と語る。孫さんは受験中心の日本の教育界の枠を飛び出し、高校を中退。米国に留学し、起業した。その軌跡は前田さんとも似ている。

「新しい教育の形をつくろう」。灘高時代の親友だった趙慶祐さんを口説き落とし、一緒に起業した。趙さんは東大の薬学系大学院を修了し、外資系戦略コンサルティング会社の採用が内定していた。灘高コンビで会社を運営し、灘高時代の恩師らの協力も得て、コンテンツサービスを拡充している。日本生命系のニッセイキャピタルから出資も受け、事業を本格的にスタートした。研究者から起業家に転身した前田さんは社会を変える人材を育てられるのか。その真価が問われるのはこれからだ。

(代慶達也)

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