マニアが楽しめる映画も見られるように

定額動画配信サービスというと、かつての大ヒット映画など、多くの人が見たがる映画が多い印象があったが、「近ごろ、シネフィル(映画通)が喜ぶ作品が続々と配信されている」と佐々木さんは話す。マニアと呼ばれる人たちが楽しむような作品が配信で見つかるようになったというのだ。

「僕はアラン・ロブ=グリエという監督が好きなんです。この人は、ヌーヴォー・ロマンの代表的作家であり、アラン・レネ監督の『去年マリエンバートで』のシナリオを執筆し、自らも映画も監督しているんです。でも、なかなか日本では公開されないし、DVDも長い間出なかった。その『不滅の女』ほか、作品がAmazon Primeでほとんど見られるようになったんです。またU-NEXTでは、イタリアホラー映画の元祖、マリオ・バーバの『知りすぎた少女』などかなりの作品が見られます」

『知りすぎた少女』 Naor World Media Films, Inc. (C)International Media Films, Inc. All Rights Reserved. U-NEXTほかで配信中

海外の映画監督だけではない。

「Netflixでは成瀬巳喜男や今村昌平の作品も見られますよ。動画配信サービスは、そういう映画好きにもうれしいラインアップになってきています」

映画館で見るということはどういうことだろう

動画配信サービスを楽しむためにいいソファを購入したという佐々木さん(前編「見逃したくない動画配信作品 作り手が薦めるのは?」参照)。とはいえ、「今でもあの映画が面白いと聞けば、映画館に行って見ます」という。そこで最後に、21年に映画館で見た作品の中で一番のお気に入りを聞いてみた。

「原一男監督の『水俣曼荼羅(まんだら)』ですね。ジョニー・デップの『MINAMATA』もあって、水俣が大きく注目されていますが、原監督のこの作品はすごかった。内容はもちろん、劇場で6時間12分という無駄のない超長尺をじっくり体感できたことも素晴らしい経験でした。配信の映画がどんどん増えることで、逆に6時間もの作品を映画館で見ようというイベント的なものも増えて来るんじゃないかと思います」

実際、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』が164分、『DUNE/デューン 砂の惑星』が155分など、ハリウッド映画の大作は2時間超えが当たり前、2時間半超も特別ではなくなってきている。

「この1年は、本当に映画館で映画を見るということはどういうことだろうと考え続けた」という佐々木さんだが、「『愛について語るときにイケダの語ること』というある種マニアックな映画を作ったのですが、それが全国の映画館で公開して、予想を超えるロングランとなり、各地でお客さんと意見交換する中で、非常にアツいものを感じました」と語る。

一方で、自身の作品を配信することで考えたこともあるという。

「僕の作品で『ナイトクルージング』という映画があります。これは全盲の人が映画を制作する過程を追ったドキュメンタリーなのですが、冒頭12分は映像が真っ暗なんです。映画館でこの作品を見たとき、館内が真っ暗になって、視覚障害を持っている人の感覚を疑似体験することになる。スマホだとその体験は難しいので、人によっては面白さが半減するかもしれない。ただ、小さな作品を全国で上映するには限界があるから、配信に踏み切ったんです。その判断がよかったのかどうかにはいろいろ考えがあります。多くの人に見てもらうために配信はいい。手軽で、それこそ世界中の人に見てもらえる。でも、その逆のデメリットもいろいろある。これからはさらに劇場で見てもらう映画を作ることの有用性を考えなくてはいけないなと思います」

佐々木誠
映像ディレクター/映画監督。主にPV、CMなどを制作。映画作品に『プレイルーム』(18年)『ナイトクルージング』(19年)などがある。CAPCOM『バイオハザード』シリーズのビハインド・ザ・シーン、フジテレビNONFIXなどドキュメント作品も多数。『キネマ旬報』などで映画評も執筆。
『愛について語るときにイケダの語ること』(20年/58分)
佐々木さんが編集および共同プロデュースを手掛けた作品。余命を知った身長112センチの青年イケダは自らの恋愛と性生活を記録撮影し、亡くなった。その残された記録映像をイケダの親友であり「相棒」などの脚本家、真野勝成さんが託され、異色の多様性をめぐる恋愛ドキュメンタリーとして完成させる。熊本Denkikanで公開中、 兵庫県の洲本オリオンでは2月17日(木)から公開。今後の上映情報、詳細は公式サイトにて。https://ikedakataru.movie

(ライター 前田かおり)