
いま地方が面白い。新型コロナウイルス感染症の影響はなおあるが、近場を旅するマイクロツーリズムの広がりやリモートワーク、ワーケションで地方の良さが見直されている。「宿」が地域再生の核となり、地元の産業や伝統工芸、自然・文化とシナジー効果を生む動きも一段と加速している。そんな地域の未来づくりに一役買っている魅力的な宿を今回、ご紹介しよう。
国連教育科学分解機関(ユネスコ)の「世界ジオパーク」。隠岐世界ユネスコジオパークの泊まれる拠点として2021年7月、島根県隠岐郡海士町に誕生したジオホテル「Entô(エントウ)」。隠岐諸島は同県北方に位置し、4つの有人島と約180の島々からなり、後鳥羽上皇が配流された先としても知られる。
世界ジオパークは国際的に価値のある地質遺産を保護したり、地域振興に活用したりすることで、自然と人間の共生の実現などを目的としている。現在、世界44カ国・169カ所、日本では隠岐や長崎県の島原半島など9カ所が登録されている。Entôは宿泊機能とジオパークの拠点機能が一体化した日本初のジオホテルという。
海士町(中ノ島)へは本土からフェリーで約3時間(隠岐の島町にある隠岐空港経由もあり)。島の玄関口、菱浦港に船が近づくと、岸壁に目を見張るほど全面ガラス張りのEntôの大きな窓が印象的だ。岩ガキや隠岐牛など多様な島の食材を生かしたおいしい食事はもちろん、温泉や化石などユネスコ世界ジオパーク認定を受けた島々を”発見”できる展示室も備える。ここを拠点に後鳥羽上皇を祀(まつ)る隠岐神社や侵食でできたハート岩などを自転車で回ったり、隠岐諸島西部の西ノ島に渡ってダイナミックな地形の国賀海岸を見に行ったり。ジオパークを満喫できるのが魅力だ。

新たに建てられた別館の客室の眺望には、ただただ驚かされる。若いスタッフ達がこだわり抜いて選んだコーヒーミルやタオルを入れるトートなどしゃれたセンスにも溢れている。代表の青山敦士氏は「ここは島唯一のホテルだったマリンポートホテル海士をリニューアルした施設です。海士町のキャッチフレーズは『ないものはない』。都会のような潤沢さはなくても、ここには自然の恵みが十分ある。それらを満喫していただければと思います」と語る。実は青山氏も北海道からこの島にやって来た一人。Entôは、Iターン(都市部で生まれ育った人が地方で働くこと)も多い魅力あるこの島を象徴するホテルになっている。