春には桜爛漫の音信川沿い長門湯本温泉にある界 長門。橋や川の飛び石なども美しく整備されている

20年3月、山口県の長門湯本温泉に「藩主の御茶屋屋敷」をテーマにした温泉旅館「界 長門」が誕生した。長門湯本温泉は、毛利藩の藩主が湯治に訪れていたという由緒ある温泉で、高度成長期には約40万人もの旅行客が訪れたが、団体旅行が減るなど旅のスタイルの変化に伴い、その数は半数にまで減少していた。14年から再生への取り組みをスタートしていた。

16年に星野リゾートが「長門湯本温泉マスタープラン」の策定を受託し、温泉街再生に向けた事業を行ってきた。川床ができて夏場には涼やかに楽しめる音信(おとずれ)川、地元イラストレーターがデザインした湯本提灯(ちょうちん)、リニューアルで温泉街の中核にふさわしくなった湯元で最古の温泉「恩湯」など。これら温泉街の再生のなかで生まれたのが「界 長門」である。

川沿いに武家屋敷の趣のある建物。魅力的な温泉街の一部として、今回は星野リゾート温泉旅館の「界ブランド」としては初めて宿泊者以外も利用できる「あけぼのカフェ」を併設する。ここでは山口県らしい柑橘(かんきつ)の”ゆずきち”を使った蜜漬けを挟んだどら焼きを販売していて、温泉街のそぞろ歩きにいい。

壁には鮮やかな模様の徳地和紙、萩焼の茶器、ルームキーは大内塗り

ご当地部屋という武家文化を生かした客室

ご当地部屋という山口県の武家文化を生かした客室は、寝台が一段高くなっている。鮮やかな徳地和紙をはじめ、萩焼、萩ガラス、大内塗りに窓からの四季の眺めを加えた五彩が華やかに彩る。焼き上がりの柔らかな感じが持ち味の萩焼は、長門湯本温泉からほど近い深川窯の作家の作品が館内を飾る。

食や「ご当地楽」と呼ばれるアクティビティにも山口県らしさが色濃い。夕食には、名産の肉厚で甘みのあるイカを使った先付けやお造り、ふぐを中心にした会席料理が萩焼の器や桶などに盛り付けられて目の前に並ぶ。

ご当地文化を体験する”ご当地楽”である「おとなの墨あそび」も楽しい。山口県の伝統工芸「赤間硯(すずり)」で墨をすって、扇形の型紙に一筆を記す。墨の香りを感じながらの静かな時間は心が落ち着き、多忙な日常をしばし忘れさせてくれる。

「界 長門」の総支配人、三保裕司氏は「シンボルの恩湯を再生し、魅力ある温泉街づくりのために地元と一緒に歩むなかで、お客様に知ってご体験いただきたい長門湯本の魅力が深められて来たと思います」と語る。温泉で寛ぐ滞在の間に、いつの間にか武家文化にも魅了されてしまう宿である。

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元醤油蔵ならではの特別な雰囲気