日経Gooday

聞き慣れた音楽をBGMにするとミスが起きにくい

――他にもなにか、思考作業をするときに実践できるようなことはありますか?

篠原さん 「ながら作業」がお勧めです。

タスクを2つ同時に抱えていると、時間がたつごとにミスが増えてきます。しかし、音楽を聴きながら同じタスクをすると、ミスが起きにくいという研究があります。

――それもわかる気がします。音楽を聴きながら仕事をすると、不思議とはかどるときがあります。でも、音楽の選択肢も多いですよね。そのときに聴く音楽はどんなものがいいのでしょう。

篠原さん 脳の前頭葉にある脳のメモ帳、ワーキングメモリに負荷を与えないものがいいですね。歌詞があってつい聞き込んでしまうような歌は無意識でもワーキングメモリに負荷をかけてしまう。歌詞がないもの、あるいはすごく聞き慣れていて、さらさら流れていくような曲を選ぶといいでしょう。

実は私も音楽と脳について研究を行っており、音楽を聴きながら作業をしているときには、脳の「側頭頭頂接合部」「頭頂連合野」、そして冒頭でも説明した「デフォルト・モード・ネットワーク」の活性が高まることを確認しました。いずれも「ひらめき」に関わる脳の部位です。

――創造力や「ひらめき」について、脳科学ではいろいろな研究が行われていることがよくわかりました。とはいえ、なかなか「気分を変えよう」という気持ちにまで至らないことがあります。資料の山を読み込むときなどはしんどいです。

篠原さん でもそれは、ひらめきを導き出すために必要な作業なんですよ。

ひらめくにも、その神経ネットワークがつながるための元の素材が入っていないとつなげようがありません。「考えに考えて、それでも思いつかない」と思う状態までは、とことん考えないとだめ、詰め込まないとだめ。そこまでやった状態でぼーっとしていると、答えが出るときは出るものです。出ないときには今回挙げたような、ぼーっとできる、気分転換の行動で切り替えてみましょう。

◇   ◇   ◇

次回は、「話すこと」「書くこと」といったアウトプットによって「ひらめき」を導き出す脳のプロセスについて聞く。

(ライター 柳本操、グラフ制作 増田真一)

篠原菊紀さん
公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授。医療介護・健康工学研究部門長。専門は脳科学、応用健康科学。遊ぶ、運動する、学習するといった日常の場面における脳活動を調べている。ドーパミン神経系の特徴を利用し遊技機のもたらす快感を量的に計測したり、ギャンブル障害・ゲーム障害の実態調査や予防・ケア、脳トレーニング、AI(人工知能)研究など、ヒトの脳のメカニズムを探究する。

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