日経Gooday

写真はイメージ=123RF

「まどろみ」で課題解決へのひらめきが2.7倍に

――考えても煮詰まってしまって答えが出ないときには、じっと机に向かっていないで別のことをすると、神経ネットワークの新たなつながりが作られるのですね。煮詰まったらさっさと別の行動をする、という切り替えが大切ですね。

篠原さん その通りです。

ちなみにぼーっとする、という状態は「まどろみ」のときにも起こります。面白い研究が報告されているので紹介しましょう。

うつらうつらする「まどろみ」。この状態のときにひらめきやすい、ということを経験的に知っていた発明家であり起業家のトーマス・エジソンは、そのひらめきのタイミングを自分で察知するために、ボールを持ちながら昼寝をしていたそうです。そうすると、うとうとし始めたときに手に持っているボールをポトッと下に落とす。そのタイミングがひらめきのときだというのです。

興味深いことに、2021年にフランスのソルボンヌ大学が「エジソンのひらめき」を模した実験を行っています。

この研究では103人の参加者が数学の問題に取り組み、休憩時にペットボトルを持ちながら休憩する、ということが行われました。すると、被験者がまどろみ、ペットボトルを落とした直後にはやたらと数学の問題が解けた、という結果が得られたのです。まどろみ状態で少なくとも15秒過ごすと、課題に隠されたルールを発見する機会が2.7倍になったのです(下グラフ)。

――2.7倍とは! すごいですね。

篠原さん 脳波の状態を調べると、深く眠る状態のときに出る脳波が多すぎるとひらめくのが難しく、寝入る前のまどろみの少しゆるい脳波、N1という状態の後にひらめきやすくなる、という説明がされています。この「まどろむことでひらめきや創造力を引き出す」という方法は、エジソンだけでなく、スペインの画家、サルバドール・ダリも行っていたという話もあります。

――確かに、ちょっとうとうとしてしまった、という後には仕事がはかどることがあります。日中に眠くなったら適度に居眠りするのがいい、という話は聞きますが、「寝過ぎないようにペットボトルを持つ」というのは浅い眠りの段階で目覚めるためのいいアイデアでもありますね。

まどろみ後にはひらめきが2.7倍に上昇

103人の健康な男女(平均年齢23.23歳)を対象に脳波を計測しながら数学課題を実施した。ペットボトルを手に持って覚醒している状態の数学課題の解決法発見率は31%で、まどろみモード(N1)の脳波に入ったときでは83%になった。深い睡眠状態(N2)になったときにはこの効果は得られなかった。(データ:Sci Adv. 2021 Dec 10;7(50):eabj5866. )
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