2022/12/2

「それは全部、俺の責任だから」 上司のあり方を学ぶ

相手への共感を大事にしながら密なコミュニケーションを重ねて開発に取り組んだ結果、発売1年足らずで100万個の販売となったヒット商品を生み出す。2013年3月発売の目薬「スマイル40プレミアム」だ。ただ、長い会社人生。光もあれば陰もある。

大きなミスをした際の上司らの一言に「こういうリーダーにならなければ」との思いを強くしたと小池さんは振り返る

薬品事業部の後半に大きな失敗がやってきまして……。開発の過程で、私の初歩的なミスで大きな金銭的損失を出してしまったんです。上司に報告すると、即座にこんな言葉が戻ってきました。

「小池に責任は一切ない。それは全部、俺の責任だから」

その方は、私を長年在籍した広報からマーケに引っ張ってくれた方でした。幸せだったのは、直属のリーダーも全く同じことを言ってくれたことです。「俺が悪い」と。はい。私にとっての「忘れられない一言」です。「上司が責任を取るというのは、こういうことか」と彼らから学びました。

「部下には失敗をさせて育てろ」というけれど、なかなかできないことですよね。ましてや、そのときは「教育」ではなく、本当に金銭的な損失を出してしまった訳で……。私自身はいまでも、完全に自分のミスだったと思っています。抱えている仕事を終わらせることしか考えられなくて、目的を考えずに取り組んだことが敗因だったと思っています。

当時、私は抱えていたタスクが非常に多かったんですね。なので、上司は労務管理者として仕事の配分の仕方とか、その辺りについてもお考えになったのかもしれません。そこは分かりませんが、失敗に気づいてショックも大きいなか、間髪を入れずに「俺が悪い」とおっしゃってくださって、どれだけ心強かったことか……。

こういうリーダーにならなければいけないと思いました。何かあったときに、「それ、決めたのは私ですから」と言える自分になろうと。同時に、その1件は「自分はライオンで生きていこう」と覚悟を決めた出来事ともなりました。

プライベートでは、母という顔も。1994年に結婚し、95年に一女を授かった。仕事と育児の両立生活のコツを尋ねると、「キーマンは夫です」と笑った。

夫は研究者で、職場はかつて私も通った神奈川県小田原市にある研究所です。結婚した当時、会社には既に新幹線通勤の制度がありました。ただし、持ち家であることが条件だったので、結婚と同時に小田原に住まいを確保。コロナ禍を経て、在宅勤務の機会も増えましたが、出社の際はいまも新幹線通勤です。

だから、たとえば娘が保育園児で発熱で呼び出しなどがあった際も、物理的な距離の差もあり夫が対応してくれました。感謝はつきません。彼は当初から、「我が家は合宿所のようなもの。(家事なども)やれる人がやれることをやろう」という考えの人で、娘が生まれた際も育休取得を望んだほど。それは実現しませんでしたが「合宿所」という言葉通り、家庭に関するあれこれは2人で担ってきました。ちなみに、冒頭にお話した副業は、夫婦2人で携われることを第1条件に探しました。

マストだけでなくウィルで生きる部分があっていい

その後、ビューティケア事業部長も務め、いまは「希望を出していた」という人事関連の部門長として活躍する小池さん。今年9月、一人娘が挙式。その際、こんな手紙を読んでくれた。「母から学んだことは好きなことをして生きていいんだということです」。その言葉を聞いて、本当にうれしかったという。後進女性たちにも、自分の「したいこと」を貫いてみようと説く。

結婚式で娘が手紙を読んでくれたときに「あ、これが私なんだ」「そうか、好きなことをやってきたんだ」って気づかされました(苦笑)。生き方はもちろん、人それぞれ。ただ、後進の皆さんには「マスト(must=しなければならないこと、義務)だけでなくウィル(will=しようと思うこと、意志)で生きる部分があっていいんじゃない?」とお伝えしたいです。

性別を巡る過去からの社会状況もあって、女性の場合、やりたいことがあっても「やってはいけない」と閉ざしてしてしまうこともあるのではないでしょうか。そこから自由になってほしい。そう思います。

長所と短所はコインの裏表のようなもの。「自分がまだ気づいていない強みが、あなたにも、きっとある」と小池さんは説く

長所と短所はコインの裏表のようなもの。これまで、たくさんの方にコーチングをさせていただくなかで、ご本人が気づいていない「強み」があることに気づかされました。

それが何か分かると、すごく開き直ることができて、ご自身の目指すところに輝きながら突き進んでいかれるようです。自分がまだ気づいていない強みが、あなたにも、きっとある。だから臆病にならずに、仕事人生でも好きなことをしていこう、とお伝えしたいです。

いまの目標ですか? 「自分の心に従い、自ら動こう」という当社のビリーフスにとても共感しますし、良き仲間も尊敬すべき上司もたくさんいて、若い頃からのいろいろなことを受け止めてくれたこの会社は私の大の自慢です。だからこそ、「この会社にいると成長ができる」と皆が思える職場になるように、自分自身や会社が信じられる環境を作っていきたいと思います。

(佐々木玲子)