働きがい改革指揮のライオン女性役員、自身も副業経験働く女性のキャリアスパイス(6)

2022/12/2
結婚や出産で女性が職場から去っていったのは昔の話。ライフイベントも経ながら働き続けていくのが、令和の女性たちに多いワークスタイルだ。とはいえ、ロールモデルが身近にいなくて先行きが見通せなかったり、働き始めた頃とは違って「成長」を実感できなかったりで悩むことも。先輩女性たちはどんな体験をバネにキャリアを築いていったのだろうか。活躍する女性に、自身を今に導いた「あの頃」や迷いを脱する助けとなった「こんな言葉」を語ってもらう。

歯磨き用品で国内トップシェアを誇るライオン。同社は売上高に占める海外比率を、2020年12月期の約4分の1から30年までに50%に高める目標を掲げる。国内からアジアへ、モノからサービスへ。「日本生まれアジア育ちの世界企業」との将来像を掲げる掬川(きくかわ)正純社長は、現職に就任した19年に「働きがい改革」を宣言した。生産性向上やイノベーションの源泉ともなる、高いエンゲージメント(帰属意識や働きがい)を社員の間に築き、プライベートも含む個々のウェルビーイング(心身の健康)を充足できる企業でありたい、との思いを込めた宣言だ。

今回は、同社の執行役員として、そんな働きがい改革の総指揮を執る、人材開発センター部長の小池陽子さんにご登場いただく。

ご本人のキャリアの話の前に、同社の「働きがい改革」を少し見ておこう。たとえば、eラーニング講座。営業・マーケティングや物流関連をはじめ実践的な4000超の学習コンテンツがあり、「大地震で物流網が寸断」など社内で実際に起きた事例のケーススタディーも。所属に関係なく、誰もが受講可能で「自律のキャリア」を側面支援する。自由闊達な空気感の良い職場づくりに向けて、全管理職には6カ月かけて部下との関係を再定義する「関係性向上プログラム」の受講が義務付けられた。

さらに、新たな視点や知見を磨くチャンスにしてほしいと副業も促す。地方の中堅・中小企業を支援する内閣府の「プロフェッショナル人材事業」に21年に参加。いまでは地方自治体から直接、副業人材の照会が舞い込む。小池さんが部門長を務める人材開発センターでは22年4月、「副業希望登録」制度も導入した。

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「成長したい」 自らも鳥取県のハローワークの案件で副業

1987年に新卒でライオンに入社した小池陽子さん。大学では薬学部で学び、薬剤師の資格を持つ。最初の配属は研究所だった。その後、広報部門やマーケティング部門を経て、2020年 1月より現職。同僚である配偶者との間に授かった娘は結婚し22年9月に挙式

自身も副業を実践した1人だ。鳥取県のハローワークがマッチング役となった案件で、「1ターム3カ月」で計9カ月ほど、10年代半ばに創業した鳥取和牛販売店の経営を支援した。オンライン会議のシステムなどを使い、創業者が頭を整理するための「壁打ち」の相手を務めるなどコンサルタント的な役割を担った。

鳥取には2回、うかがうことができて従業員の皆様にもお会いしてきました。(副業先の経営者は)ご実家が酪農家だった方なんですね。生き物相手ですから、酪農のお仕事はハードで、ご両親もお休みになれない。そうしたご苦労を見て育った分、大事に育てて商品化した精肉が、「適切な流通網で価値に見合うように売られていく世界をつくりたい」と創業なさったそうです。

「創業者の思い」に触れられたことは大きな勉強になりました。もちろん、当社もパーパス(PURPOSE、存在意義)やビリーフス(BELIEFS、信念)といった「考え」は持っています。ただ、起業に至っただけの熱意の大きさやスピード感は草創期ならではのものです。思いを事業化して経営を軌道に乗せていき、お金をいただくことの難しさ。それを目の当たりにして、「自分たちも、もっとスピードを上げるべきだ」など、日々の業務を見直す新たな視点や自分なりの「宿題」がいくつも見つかりました。

副業した理由ですか? う~ん…………自己成長ですね。少し話が飛びますが、私、クラシックバレエを習っているんです。大人のための指導を専門的にしてくださるところで、仲間の大半は50~60代の方々です。なぜ、その話を出したかというと、そのレッスンでは、いまの私でも、できることがどんどん増えていくんですよ。まだまだ伸びしろがあると気づかされる。仕事も同じだと思います。常に成長していきたい。

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キャリアは意思で描けるものではない、と思っていた