塩と酸とオリーブオイルで素材の味引き出す

アユ料理とティーペアリングのダージリン紅茶

次は、年に3回は異なる調理法で出すというアユ料理。滋賀県のアユの名産地、高島市の小アユに塩を振って軽くローストし、骨をはずし、身はパン粉揚げにした。水切りヨーグルトと発酵レモンとディルのソースでいただく。アユの骨煎餅(せんべい)は油で揚げた。上にすりおろしたのは、吉田牧場の長期熟成ハードチーズのマジャクリ。風味はコンテというチーズに似る。アユの肝とロメインレタスの苦味、ソースの酸味を楽しみ、カリッとした骨煎餅との食感の違いも楽しい一皿だ。ティーペアリングはネパールの発酵度の低いダージリン紅茶で、強すぎない香りが料理に補われる。

「(大卒後に初めて働いた)『イル・パッパラルド』(京都市)の料理長だった笹島保弘シェフから言われたのは、『素材にちゃんと塩を当てなさい。ぼんやりした料理はあかん』ということでした。そこにヴィネガーやレモンなどの酸を振ると、おいしくなるというその塩梅(あんばい)を学びました。その後、塩と酸とオリーブオイルの使い方でどう素材の味を引き出すかがイタリア料理の鍵だということに気がついたんです」(坂本シェフ)

イタリア料理の酸というとヴィネガーやレモンが基本だが、野菜や果物、乳などの発酵による、奥行きのある酸味が「cenci」の料理には生かされている。「飯尾醸造(京都府宮津市)の『富士酢』で発酵のおもしろさに気づいたのがきっかけです」と坂本シェフは話す。

伝助アナゴの炭火焼きとトマトのロースト

魚料理が続いて、北海道産の伝助アナゴの炭火焼きに、ローストしたトマトを添えた料理が登場。新ショウガとエシャロットの酢漬け、クレソン、パクチー、カルダモン、クミン、コリアンダー、フェヌグリークというスパイスを混ぜたものが、ロースト後に冷ましたトマトにのる。舌に後味として残るエスニックな風味は、ティーペアリングの台湾阿里山茶で洗い流される。

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日本料理の技法をふんだんに取り入れる